最新記事

ファッション

「邪悪」フォーエバー21破産でも、ファストファッション自体は健在

FAST FASHION IS ALIVE AND WELL

2019年10月7日(月)18時30分
エリザベス・L・クライン(ジャーナリスト)

破産法適用を申請したフォーエバー21は日本など世界各国からの撤退も決めた(ニューヨーク) DREW ANGERER/GETTY IMAGES

<ファストファッション帝国の崩壊の始まり――ではない。使い捨て文化は今、見えない形に「進化」している>

フォーエバー21は邪悪なファストファッションの典型だった。デザインを考案するより盗用して、訴えられたら和解に持ち込む。搾取労働の疑いで当局に調査されたこともあり、ライバルのH&Mやザラと違って、持続可能性や労働基準に目配りすることはほとんどなかった。

そのフォーエバー21が9月29日、米連邦破産法11条の適用を申請した。アジアや欧州では大部分の店舗を閉鎖するという。過剰な国外進出が経営破綻につながった可能性はあるが、今回の一件はファストファッションという一大帝国の崩壊が始まった兆候だという声も上がる。

確かに、小売業界の衰退を示す出来事ではあるだろうが、ファストファッション自体は明らかに健在だ。ただし、買い物をする場所は変わった。今ではファッションノバなど、通販中心のファストファッションブランドが売り上げを伸ばす。

アメリカがファストファッションに夢中になり始めたのは1990年代だ。海外への業務委託の拡大や中国のWTO加盟、繊維製品の輸入割当制度の撤廃を背景に、衣料品消費の総計は1991~2005年の間に倍増した。

2008年の金融危機を受けた景気後退期を除けば、アメリカでは2005年以降、毎年のように200億枚以上の衣服が消費されている。世界中で製造される衣服は1年当たり推計1000億枚。つまり、世界人口の約4%に相当する米国民が世界の衣服の20%を買い占めている計算だ。それは同時に、航空業界や農業並みに高いファッション業界の環境負荷のうち20%は、米国民に責任があることを意味する。

時給5ドルの搾取労働

フォーエバー21は労働問題をほぼ無視してきた。これは「業界標準」の姿勢らしい。米労働省は2016年、ロサンゼルスにある複数の衣料品製造工場を調査。発注先のフォーエバー21やファッションノバが払う代金が極めて低く設定され、労働者は搾取とされるレベルの賃金しか受け取っていないことが判明した。

その後も大きな変化は見られない。ロサンゼルスを拠点とする権利擁護団体、衣類労働者センター(GWC)は同市での未払い賃金が計80万ドルに上るとして、ディスカウントチェーンのロス・ドレス・フォー・レスに支払いを求める運動を展開中だ。

ロサンゼルスの工場では労働者の時給はわずか5ドルだと、GWCの代表者は電子メールを通じて指摘した。「労働者全員に公正な賃金を支払い、生産量を減らして品質を上げるほうがはるかに持続可能なモデルだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中