最新記事

BOOKS

承認欲求は「最強」の欲求... では、バイトテロはなぜ起こるのか?

2019年2月28日(木)16時05分
印南敦史(作家、書評家)


ある学生の友人(女子)は高校時代、生徒会長に選ばれるなど周囲からの人望が厚く、教師や友人からとても頼りにされていた。しかしその友人は内心、それを重荷に感じており、彼女はときどきその学生に気持ちを打ち明けることがあったという。その友人が突然、自ら命を絶ってしまった。それだけ悩んでいたのならもっと助けてあげられたのではないかと、いまでも後悔しているそうだ。付け加えておくと、まったく同じようなケースをほかでも聞いたことがある。(66ページより)

近年の教育現場においては、子供たちの自己肯定感や自尊感情の低さが問題視されているという。そのため児童・生徒をほめて育てようという機運が高まっており、実際にその効果は表れはじめているそうだ。そうした事実に関しては、納得できる方も多いのではないだろうか。

しかし、この例からも分かるとおり、副作用も大きいらしいのである。一般的に、ほめるのはよくて叱るのは危険だといわれている。だが受け止め方によっては、叱るよりほめるほうが危険な場合も少なくないということ。叱られたら反発する子も、ほめられたら否定することが難しいというのがその理由だ。

もちろん、どれだけ「認知された期待」が大きかったとしても、その期待に応えられるのであれば問題はないだろう。つまり「承認欲求の呪縛」に陥るかどうかは、本人がその期待からどれだけプレッシャーを受けるかによるということ。「認知された期待」から受けるプレッシャーこそが、「承認欲求の呪縛」の正体なのだ。


 名著『夜と霧』の著者であり、精神科医、哲学者でもあるV・E・フランクルは、人間存在の意味を追求する「ロゴセラピー」を説き、関連してこう述べている。「恐怖症と強迫神経症の病因が、少なくともその一部は、患者がそれから逃れようとしたり、それと戦おうとすることによって起こる不安や強迫観念の増大にあるという事実に基づいている」(フランクル 一九七二、一七六頁)。
 このような現象を「精神交互作用」と名づけたのが、「森田療法」で知られる医学者の森田正馬である。森田によると、そもそも神経症の不安や葛藤は正常な人にも生じる心理状態であり、自分にとって不都合な弱点を取り除こうと努力するほど、その意に反して自分に不都合な神経症の症状を引き出してしまう(岩井 一九八六)。(70ページより)

つまりは「期待を裏切ってはいけない」という意識が心のどこかにある限り、その不安を取り除こうとすればするほど、どんどん負のスパイラルに陥ってしまうということだ。しかも往々にして、「不安を取り除いてやろう」という周囲の気遣いが本人を追い詰めてしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高

ビジネス

仏クレディ・アグリコル、第1半期は55%増益 投資

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中