最新記事

日本経済

日本はトランプ貿易戦争をかわせる? 日本車メーカーの「切り札」とは

2018年11月6日(火)10時41分

11月1日、専門家や業界関係者の話では、日産やホンダ、トヨタ自動車といった日本勢は、柔軟な生産態勢を確保するという面では業界で最も巧みだ。写真は、ホンダ「アキュラ」の組み立てライン。米オハイオ州で2016年11月撮影(2018年 ロイター/Maki Shiraki)

日産自動車が米テネシー州スマーナで操業する米国最大規模の工場では、組み立てラインに沿って社員の台車が、緑や青のライトを確認し部品を選別する棚を行き交っていた。

日産はこのシステムを「pick to the light」と呼ぶ。新モデル設計担当ディレクターのライアン・フルカーソン氏は、工場で生産されている6種類の自動車に社員が適切な部品を当てはめるのを手助けするためのものだ、と話す。「どの種類の車がラインにやってきても、該当する部品が待ち受けている」という。

複数の種類の車を生産する組み立てラインの設計は何十年も前から行われていた。ただ、今は1つの種類から別の種類に生産をいかに円滑にシフトできるかが、さまざまな課題に対処しなければならない自動車業界にとって死活問題なのは間違いない。

なぜなら世界中の消費者は、伝統的なセダンよりもSUV(スポーツタイプ多目的車)への志向を急速に強めているし、最近の米国におけるガソリン価格上昇は、より深刻なオイルショックが起きれば小型車の人気が復活する可能性を想起させるからだ。

さらに貿易摩擦や輸入関税は、多くの車をある国から別の国に輸出しているメーカーに脅威を与え、中国市場における販売鈍化、米国市場の停滞、全面的な貿易戦争発生の懸念などが、業界を取り巻く不透明感を一層高めている。

専門家や業界関係者の話では、日産やホンダ、トヨタ自動車といった日本勢は、柔軟な生産態勢を確保するという面では業界で最も巧みだ。彼らは日本市場向けの1種類の車では工場を維持できなかったので、必要に駆られて工程やプラットフォームの互換可能性に力を注いできた。

欧米勢はこれに追い付くための取り組みを進めている。例えばフォード・モーターは、ケンタッキー州の工場で最も売れ筋のいくつかのピックアップトラックと大型SUVを同じプラットフォームで生産し、今年は100%の稼働率を達成する見通し。

逆にゼネラル・モーターズ(GM)は、単一モデル依存の危険性を示している。人気のピックアップトラックを生産する工場群はフル稼働しているが、乗用車1種類しか製造していない工場は稼働率が相当低い。今年1-9月の販売台数が26.5%減ったセダンの「クルーズ」だけを生産するオハイオ州の工場では、稼働率が30%強、生産シフトは1回にとどまっている。

1つの組み立てラインでさまざまな車体を製造するには、車の設計段階から溶接などに使う工具に至るまで、入念な協力態勢を確立する必要がある。

ホンダが08年に操業を始めたインディアナ州グリーンズバーグ工場の場合、当初は「シビック・セダン」を、次いでより小型の「アキュラ」の製造を行っていたが、昨年セダンの販売が減少してSUVの需要が高まったことを受け、コンパクトSUV「CR-V」を同じラインで生産することを決めた。

同社はこの実現に向けて数々の工夫を強いられたが、工場幹部によると、自動化は推進しなかった。やろうと思えばできたとはいえ、人間の方が臨機応変に動けるのだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中