最新記事

沖縄

本土に伝わらない沖縄の本音と分断

The True Face of Okinawa

2018年9月28日(金)19時00分
與那覇里子(沖縄タイムス記者)

「新聞は真実を伝えない」

応接室にやって来たのは高校3年生の2人組。学校が終わると、ストリートでダンスの練習をしているという。眼鏡を掛けて、私より少し高い165センチほどの背丈。制服の白シャツは彼らの細身の体を持て余していた。「学校の外でも活動している高校生の披露の場がないので、自分たちで企画しました。多くの人に来てほしい」。スポンサーも自分たちで集めてきた17歳を応援したいと思った。 

「ネットは新聞紙面で掲載した後にアップしますね。今日は来てくれてありがとう」

私がペンとノートを鞄にしまい、彼らと一緒に部屋を出ようとしたところ、2人が顔を見合わせてから、こう言ってきた。「あの、新聞って本当のことが載ってなかったりするんですよね。ネットだけに出してもらえませんか」。事態をのみ込めず、話を聞いた。まとめるとこうだ。

彼らは情報をネットから収集している。メッセージアプリのLINEで流れてくるニュースは読む。ネットで沖縄の新聞は事実と違うことを書いていると読んだことがある。ニュース系でよく見ているのは YouTube の「KAZUYA Channel(カズヤチャンネル)」。新聞は読んだことあるのかと聞くと「紙は今まで一度もない」ことが分かった。

カズヤチャンネルは、今年9月18日現在、登録数が53万3448人にも上る人気チャンネルだ。保守系の論客、KAZUYA氏が時事問題や歴史を解説する。18年5月頃から、YouTubeの利用規約に反するという通報が相次ぎ、差別動画の多くが見られなくなっているが、若者を中心に支持されている。

若者は「マス」メディアにほとんど触れなくても、YouTubeは見ている。5分程度でニュースを解説するカズヤチャンネルの手軽さもある。沖縄に限ったことではなく、スマホの登場で接触する媒体が「地元」から「全国」に移り、地元に根差した歴史、地元特有の考え方に触れにくくなっている。

ちょうど同じ頃、基地問題を学ぶあるイベントで知り合ったのは、普天間飛行場の移設で揺れる名護市辺野古にある沖縄工業高等専門学校に通う学生だった。彼もカズヤチャンネルを見ていた。

辺野古のゲート前では、早朝から移設に反対する人たちの座り込みで渋滞が起き、その影響で遅刻する学生が出始めていた。ツイッターでは、若者たちが反対する人たちへの批判の声を書き込んでいた。

イベント会場で「沖縄タイムス」の腕章をしていた私の所にその学生はすっと寄ってきた。小声で「記者さん、僕たち、校遅刻するから迷惑なんだけど、それも書いてよ」と話し始めた。

「なんで今日このイベントに来たの?」
「いや、おじーおばーがあんなに一生懸命反対しているから、理由を知りたかった」
「基地ができた歴史とか、辺野古に新しい基地を造ろうとしている経緯を知らないの?」
「全然分からない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ラファ攻撃は「人道上の悪夢」、停戦合意に尽力を=国

ワールド

米英豪、ロックビットのロシア人幹部に制裁 ランサム

ビジネス

米金融政策、想定ほど引き締まっていない可能性=ミネ

ビジネス

米当局、テスラに詳細要求 「オートパイロット」リコ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    「ハイヒールが効率的な歩行に役立つ」という最新研究

  • 8

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 9

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中