コラム

大統領選挙に見るフランス政治のパラダイムシフト

2017年04月04日(火)17時30分

伝統的な左右対立

そもそも、右、左とはどういうことなのか。右派、左派という区別は、よく知られているように、フランス革命の際の王党派と革命派の議会における議席の位置に由来する。これ以来、伝統的に、保守派を右派、革新派(ないしリベラル)を左派と称することが、日本を含め、一般的な政治概念として定着している。本場のフランスでは、今も、右左という言葉は、政治的対立軸を表わす概念として、メディアに頻繁に登場するし、実際、フランス政治は、左右の対立軸の上で展開されてきた。

フランスの右派は、宗教やフランス固有の価値観を拠としつつ、私有財産保護や経済活動の自由を求める傾向が強く、農村やプチブルジョワジーなどが伝統的な支持基盤となってきた。それに対し左派は、世俗的で平等や連帯、弱者保護などを重視する傾向が強く、都市や労働者階級などが伝統的な支持基盤となってきた。

第五共和政下では、右派としては、中央集権と行政権の優位を重視し、ナショナリズムや強い国家を志向するゴーリスト(RPR)と、地方分権や議会を重視し、自由主義的でヨーロッパ志向の非ゴーリスト(UDF)の二つの潮流が併存した。一方の左派としては社会党と共産党があり、1970年代半ばから80年代にかけて2極4党体制と呼ばれる体制が定着した。

tanaka0404a.jpg

しかし、この体制は、その後のグローバル化と欧州統合の進展に伴い、それへの対応を巡って、大きな変化を示すことになる。まず右派においては、ゴーリストの中で、それまでの保護主義・国家介入主義的な姿勢を改め、市場を重視し、新自由主義、小さな政府を志向する考え方が強まった結果、非ゴーリストとの合同の機運が高まり、2002年の大統領選挙後に「国民運動連合」(UMP)としての大同団結が実現した。

tanaka0404b.jpg

左派では、1980年代以降共産党が凋落傾向を示し4党体制から脱落した後は、社会党が最大勢力となった。その社会党は、ミッテラン政権時の1980年代前半に、EMS危機への対応にあたり、他のEC主要国との政策協調の道を選択して以降、新自由主義の方向性が強まる世界経済の中で、欧州経済との一体化と市場経済重視の方向、グローバル化の方向に踏み込んでいく。

このようにして、フランスにおける左右両派の2大政党は、いずれも、グローバル化への対応として、新自由主義的な処方箋と欧州統合との組み合わせにより乗り切っていこうという方向にシフトしていった。それは、国民の意識が、EUという現実を受け入れ、その中で繁栄を図っていこうという考え方に変わり、偏狭なナショナリズムから脱却してグローバル化志向へと変化してきたことを反映していると信じられていた。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より東京外国語大学教授、2019年より現職。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時間後

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story