最新記事

2020米大統領選

主戦場ペンシルベニアを制するのはトランプか、バイデンか

Inside the Fight for Pennsylvania

2020年10月20日(火)19時20分
スティーブ・フリース

magw201020_US2.jpg

バイデンは上院議員時代からペンシルベニア州の労組関係者との付き合いを深めていた(9月) MIKE SEGAR-REUTERS

「ペンシルベニア州はこの国の縮図だ。人口密度の高い都市部に民主党支持者が集中し、人口密度の低い地域には共和党支持者が多い」と指摘するのは、同州南部にあるディキンソン大学のデービッド・オコネル准教授(政治学)だ。「だから、ここでの結果が国全体の命運を決する」

そうであればこそ、運命の投票日を2週間後に控えた今も、両陣営はペンシルベニアで火花を散らしている。バイデン陣営は4年前の失敗を繰り返すまいと必死の努力をしているし、トランプ陣営はウイルス感染のリスクを冒してでも4年前の勢いを維持しようとしている。

そして今年は、投票が済んでからも争いが続く可能性がある。投票の手続きに異議を申し立てようと、両陣営(とりわけ共和党側)の弁護士が手ぐすね引いているからだ。その場合もペンシルベニアが主戦場となるだろう。

トランプ陣営はペンシルベニアで、しばしば「フラッキング」という語を持ち出している。岩盤を破砕して天然ガスを取り出す手法で、その際に用いる薬品による環境汚染が懸念されるため、国によっては禁止しているが、ペンシルベニアはこれのおかげで全米第2位の天然ガス産出州となった。もちろん、しかるべき雇用も生み出している。

新型コロナウイルスに感染して10月初めの数日を棒に振ったトランプは、退院の翌日さっそくツイッターで「フラッキング(雇用だ!)にも銃にも宗教にも反対するバイデンがペンシルベニアで優勢だなんて世論調査はインチキだ」とほえた。

副大統領のマイク・ペンスも翌8日の副大統領候補テレビ討論会でこの問題を取り上げ、バイデンはフラッキングを禁止するつもりだと非難した(事実として、バイデンはそんな主張をしていない)。そのまた翌日にも、トランプは「フラッキングのもたらす雇用と利益がなければペンシルベニア州はおしまいだ」とツイートしている。

ペンシルベニアの農業地帯や工業地帯の有権者は、以前は民主党支持だったが、最近は都市部重視の同党に見放されたという不満が強く、それが前回の共和党勝利の決め手となった。トランプは当時、この地域をくまなく回り、外国との貿易協定のせいで工業も農業もぶち壊されたと主張。自分なら鉄鋼所も石炭産業も守る、天然ガス業界も環境保護派から守る、農家の暮らしも守ると約束した。

その作戦は当たった。4年前の出口調査では、ペンシルベニア州の農村部と準郊外地ではトランプが71%対26%の大差で勝っていた。大都市圏でこそ民主党クリントン陣営が優勢だったが、州内に67ある郡のうち63郡では、共和党が2012年の大統領選時より大幅に票を伸ばしていた。

今回、トランプ陣営は4年前に獲得した支持基盤を守らねばならない。だから選挙戦の最終盤では100万戸の戸別訪問を試みるという(検証は不能だが)。既に4000回以上のオンライン対話を重ね、3万8000人の有権者に接触したという。

トランプ自身も大統領就任後にペンシルベニア州を24回も訪れている(自分のゴルフ場があるフロリダ州を除けば最多)。この9月にもピッツバーグ、ハリスバーグ、ラトローブ3市の空港施設内で大規模集会を開いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英建設PMI、4月は約1年ぶり高水準 住宅部門は不

ビジネス

円安、政策運営上十分に注視していくこと確認した=首

ワールド

イスラエル軍、ラファ検問所のガザ側掌握と発表 支援

ビジネス

アングル:テスラ、戦略転換で幹部続々解雇 マスク氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中