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2020米大統領選

バイデン勝利にラティーノ票の不安 民主党がハートをつかみきれない訳

THE FIGHT FOR THE LATINO VOTE

2020年10月16日(金)17時15分
エイドリアン・カラスキーヨ(本誌政治担当記者)

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フロリダ州ではキューバ系が鍵を握る(2019年のトランプ支持者の集会) JOE RAEDLE/GETTY IMAGES


「民主党は社会主義だという攻撃は本当に効く」と言ったのは、地元の活動家フェルナン・アマンディ。「嘘だと思うなら(2年前の知事選と上院選で涙をのんだ民主党の)アンドリュー・ギラムとビル・ネルソンに聞いてみればいい」

かつてオバマ陣営でラティーノ向けの世論調査を担当していたアマンディに言わせると、「民主党は社会主義」だという主張を甘くみるのは危険だ。2年前は民主党に追い風が吹いていたから、ギラムもネルソンも勝てるはずだった。しかし「民主党は社会主義だと決め付ける共和党の攻撃に圧倒され」て、勝機を逸してしまった。

共和党は民主党ほどラティーノ票に依存していないが、もちろん過去に制した票田を譲る気はない。トランプ陣営は既に英語とスペイン語で草の根イベントを4万5000回も開いているし、「社会主義に反対する行動の日」という集会も開き、アリゾナとフロリダ、ネバダ、テキサスの各州にはラティーノ対応に特化した現地事務所も開設している。

これらの州では毎週水曜日に、トランプ支持の女性を集めたデジタルイベントも開いている。またフロリダ、アリゾナ、ネバダ、ウィスコンシン、ペンシルベニアの各州では支持者の有権者登録を支援する一方、フードバンクへの寄付に協力して、彼らの経済的困窮を理解している姿勢も見せつけている。

9月半ばにはアリゾナ州フェニックスで、トランプ自身がラティーノ有権者の円卓会議に出席し、彼らがアメリカン・ドリームを実現した話に耳を傾けた。そしてトランプ陣営幹部のスティーブ・コルテスは本誌に本音を打ち明けた。ラティーノがトランプを支持しなくてもいい、ただバイデンに票を投じなければいいのだと。「彼らがバイデンに投票しなければ、それだけでこちらには半分の勝利となる」

バイデンにラティーノ向けの政策はないのか。ある。例えば小規模経営者や起業家向けの支援だ。スタンフォード大学の調べでは、過去10年でラティーノによる起業は34%も増えている。この層に向けて、バイデンは新たに500億ドル超の起業支援ファンドを官民共同で設立すると約束している。国立ラティーノ・アメリカン博物館の設立やラティーノ人材の登用推進も表明した。

ラティーノは最終盤に動く

しかしスペイン語メディアへの露出は、4年前のクリントンに比べると少ない。事情通によると、陣営内にはバイデンをもっとスペイン語テレビ局に出演させようという意見もあったが、実現しなかった。話題が移民対策に及び、不法移民の強制退去を進めたオバマ政権の姿勢を問われたとき、バイデンが本能的に擁護してしまうのを恐れたからだ。

その結果、バイデンはネバダ州党員集会の直前まで、ラティーノに絶大な影響力を持つジャーナリスト、ホルヘ・ラモスのインタビューに応じなかった。それでも9月15日にはキューバ系アメリカ人のホセ・ディアスバラルトが司会するニュース番組に出演し、プエルトリコ人を「二流市民」扱いするトランプを非難する一方、プエルトリコ大学には「歴史的に黒人系ないし少数民族系とされる大学と同等の支援」をするべきだと熱く語った。

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