最新記事

サプライチェーン

日豪印が目指すサプライチェーンの再構築は、地政学的・経済的な「反中同盟」の先駆け

2020年9月16日(水)19時15分
アミテンドゥ・パリト(国立シンガポール大学南アジア研究所上級研究員)

生産ネットワークの再構築へ(横浜港のコンテナ積み出し基地) KIM KYUNG HOON-REUTERS

<将来的な生産停止を回避するべく、日豪印を中心に進められるインド太平洋地域におけるサプライチェーンの再構築。背後には、対中関係悪化に伴う政治的動機も>

日本、オーストラリア、インドの3カ国が9月1日に共同提案した「サプライチェーン強靱化イニシアチブ(RSCI)」は、世界経済秩序の変化を示唆する動きだ。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)に対応したインド太平洋地域のサプライチェーンの再構築を目指すもので、同地域における国境を越えた生産ネットワークの在り方を根本的に変える可能性がある。

今回のパンデミックは既存のサプライチェーンの弱点を浮き彫りにするものだった。域内各国のロックダウン(都市封鎖)と生産停止は、原料と最終製品の世界的な流通に甚大な影響を与えた。

何十年にもわたり経済効率性を主眼に構築されてきた地域内のサプライチェーンは、明らかに新型コロナのショックに対応できなかった。予期せぬ混乱への耐性を高めるためには、サプライチェーンの見直しと再構築が必要だ。

日豪印を含むインド太平洋諸国は混乱のリスクを最小化し、回復力を高めるために、サプライチェーンのさまざまな分野で調達の多様化を図ることが喫緊の課題となった。将来の生産停止を回避するためには、貿易・経済面で「中国離れ」を進める必要がある。

この動きの背後には、日豪印とアメリカの対中関係悪化に伴う政治的動機もある。中国に対する安全保障上の懸念が高まるなか、これらの国々にとって中国を除外したサプライチェーンの再構築は主要な政策目標の1つになった。

半導体、自動車、医薬品、通信などの分野でサプライチェーンを安全保障上の脅威のない国に移せば、より広い意味での戦略的な中国の「切り離し」にもつながると、RSCIの支持者は期待する。強圧的な中国に対抗する国々の協力強化にもなる。

政治・安全保障上の強い動機がなければRSCIは生まれなかったはずだ。例えば中印国境の緊張は、ここ数十年で最悪のレベル。オーストラリアも、自国ジャーナリストの強制送還などで対中関係が大きく悪化している。日本も尖閣諸島の領有権問題が何度も蒸し返され、対中感情が悪化している。

RSCIは地政学的要因を主眼に生産ネットワークと貿易関係を再構築しようとするものだ。通常、サプライチェーンの成長を決定付ける要因は経済効率性であり、「中国外し」を成功させるためには関連企業への政策的支援が必要になる。

例えば日本は、中国から生産拠点を移転する企業に補助金を出している。当初は国内回帰や東南アジアへの移転が対象だったが、最近インドやバングラデシュも対象に追加された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中