最新記事

中国共産党

内モンゴルの小中学校から母語教育を奪う中国共産党の非道

2020年9月10日(木)15時10分
アントニオ・グラセッフォ

モンゴル文字のスローガンを掲げて抗議(モンゴルの首都ウランバートル) ANAND TUMURTOGOO-REUTERS

<ウイグルやチベットに対する中国の人権侵害は国際社会に広く知られているが、内モンゴル自治区の実情はなかなか表に出てこない>

「モンゴル語はモンゴル人の一部。言語を失えば、民族のアイデンティティーを失う」。横断幕にはそう書かれていた。

中国北部の内モンゴル自治区政府は、この9月に始まる新年度から小中学校でのモンゴル語による授業を大幅に減らすと発表。これによって、語文(国語)、政治(道徳)、歴史の3教科が、標準中国語で教えられることになった。

この措置にモンゴル人の保護者が反発。新学期以降、子供を学校に送らなかった。モンゴル人の児童・生徒が約1000人いるナイマン旗地区では、新学期初日に登校した子供が10人にとどまった。

ネット上に公開された動画には、子供を学校から連れ帰ろうとするモンゴル人保護者と、これを阻止しようとする警官がにらみ合う場面を捉えたものもある。BBCによれば、抗議行動に対応するため数百人規模の警官が投入されたある地区では、数時間に及ぶにらみ合いの末に、保護者が警察のバリケードを突破して子供たちを連れ戻した。

モンゴル人の子供たちが「私たちの母語はモンゴル語!」「私たちは死ぬまでモンゴル人!」と叫んでいる動画もある。伝統衣装を着たモンゴル人男性がハラ・スルデと呼ばれる黒い旗を掲げている動画もあった。ハラ・スルデには、敵を倒すためにモンゴル人の精神と力を結集するという意味合いがある。

中国の憲法は、国内の「全ての民族は平等であり、国家は少数民族の合法的権利と利益を守る」と定めている。しかし中国当局は建国以来、少数民族の権利をゆっくりと奪ってきた。

今回の措置も少数民族の同化策の一環だ。モンゴルやウイグルなど少数民族の女性と結婚する漢民族の男性に、多額の手当を支給する地域もある。

内モンゴルの住民には信教の自由もない。中国で許されている仏教信仰は、共産党の中央統一戦線工作部の下にある中国仏教協会だけ。しかしモンゴル人の間に広まっているのは、ダライ・ラマを最高指導者とするチベット仏教だ。中国政府によるチベット仏教やダライ・ラマとの交流への制限は、チベット人だけでなくモンゴル人にも影響を及ぼしている。

国際社会では、新疆ウイグル自治区やチベット自治区に対する中国の人権侵害はよく知られている。それに比べると、内モンゴル自治区の実情はなかなか表に出てこない。

【関連記事】中国が傲慢な理由で強行した「モンゴル語教育停止」の衝撃
【関連記事】平和を礼賛する日本が強者にだけ謝罪する偽善

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中