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日米同盟

イージス・アショア導入中止は、日米同盟を再考する絶好のチャンス

Japan Quits Aegis Ashore

2020年7月14日(火)19時10分
ジェフリー・ホーナン(米ランド研究所研究員)

このシステムには、日米同盟を強固にしようという意図もあった。5万人の兵士を抱える在日米軍を守り、米本土の防衛能力を強化するはずだった。さらには米軍のイージス艦が日本の防衛以外に注力することができ、日本に対する防衛力を維持したままでアジアの他地域に配備されることも可能になるはずだった。

他の兵器でも同じことが

日本の安倍政権は、イージス・アショアによる新たな防御層の重要性を主張していた。北朝鮮は数百基の弾道ミサイルを保有しているし、現行の防衛システムは日本のイージス艦に多大な負担を与えている。しかもイージス艦は、荒天や燃料補給、定期的なメンテナンスなどのために、弾道ミサイル防衛機能を24時間365日、維持できるわけではない。イージス・アショアには、その穴埋めの役割が期待されていた。

日本政府は今のところ、代替案を発表していない。日本を攻撃するミサイルを配備した敵の基地への攻撃能力など、日本の抑止力に関わる広範な問題に議論を移している。

日本の今回の決定を後押しした要因を理解することは重要だが、同じくらい重要なのは、日本のイージス・アショア計画停止で語られていない要素に目を向けることだ。

安倍晋三首相に対しては、計画の停止で日米の戦略目標の相違が明らかになったという批判が出てくるだろう。だが計画停止によってむしろ明らかになったのは、日米は共通の戦略目標を掲げていても、目標に至るアプローチが異なっているということだ。たとえ日本が防衛策としてイージス・アショア以外の兵器システムの取得を試みても、日本の対北朝鮮政策は非常に一貫しており、アメリカの政策が二転三転してもぶれていない。

同様にイージス・アショアの配備中止は、ドナルド・トランプ米大統領の要求を突っぱねた結果ではない。日本政府が配備を決めたのは確かに2017年にトランプが大統領に就任した後だが、この判断は一部で指摘されるようなトランプへの「忖度」ではない。

その証拠に就任前の2013年の防衛省の「防衛計画の大綱について」には、既に「弾道ミサイル防衛システムについては(中略)即応態勢、同時対処能力及び継続的に対処できる能力を強化する」とある。

ここに書かれているとおり防衛省は、イージス・アショアやTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備の可能性を探るようになる。イージス・アショアについては2014年、米軍が欧州2カ所への配備を進めているときから注目していたようだ。トランプがアメリカ製の製品や兵器を売り込み始めた段階で、日本側の腹はもう決まっていた。

配備計画の撤回が無理もないからといって、それで日米同盟が無傷で済むわけではない。イージス・アショアほど必要性の高いものが展開されないとなると、導入が検討されている他の兵器についても同じことが起こるのではという懸念は生じるだろう。

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