最新記事

温暖化対策

温暖化リスク、首都圏浸水の危機シナリオ 荒川氾濫なら被害90兆円規模に

2020年1月19日(日)14時00分

2年続いた1兆円規模の水害

国土交通省統計によると、西日本豪雨なや複数の台風が襲来した18年の被害額は1961年の統計開始以来、3番目に大きな規模となる1兆3500億円にのぼった。19年は橋や道路など公共土木施設だけでも18年を超えたことが明らかとなっており、民間設備を含めた全体額では18年超えは確実と、政府幹部はみている。過去10年間で1兆円クラスの水害は起こっていなかったが、18年と19年は2年続けての大規模水害の年として記憶されることになりそうだ。

専門家が最も懸念するのは、東京下町5区を流れる大型河川の荒川が氾濫した場合の経済的影響だ。土木学会が18年6月にまとめた試算では、公共インフラや家屋、工場、機械など資産の被害額だけで36兆円。18年に過去最大の被害をもたらした西日本豪雨の1.1兆円とはけた違いの規模になる。

荒川流域でかつてないほどの巨大被害が懸念されるのは、浸水域の人口が120万人にのぼり、密集した住宅や中小企業の建物に加えて、公共インフラの破壊に伴う影響が多方面に波及するためだ。15年に起きた鬼怒川の氾濫をモデルとして復旧まで14カ月かかると想定した場合、資産被害に加えて、生産停滞や消費、輸出減少などの経済的被害額が26兆円になると試算されている。

しかし、関西大学社会安全研究センターの河田恵昭センター長は、荒川が氾濫した際の経済的被害額は90兆円にのぼると試算している。同氏は、荒川の復旧は鬼怒川と同様の期間では到底無理だと断言。過去の国内水害データをもとに算出すれば、荒川流域の復旧には数年が必要で、「都心近くを流れる荒川の場合、従来の氾濫とは比較にならない経済被害が生ずる」と警告する。  

さらに、被災してしまうと、元の経済規模への復旧が容易でないことを示す事例もある。経済産業省の分析では、阪神淡路大震災後、神戸港が全国に占める輸出シェアはかつての12%前後から15年後には7.6%に低下。東日本大震災では、東北・関東の沿岸浸水地域の鉱工業生産額は4年経過後も減少が続いた。被災に伴う人口流出や産業構造の変化も影響している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国海洋石油の元幹部を調査、重大な規律違反疑いで当

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 物価上昇圧力を警戒

ワールド

パレスチナ国連加盟決議案、総会で10日採決の可能性

ワールド

米公的年金・メディケア、積立金枯渇見通し後ずれ 経
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中