最新記事

ブレグジット

大迷走イギリスが「残留」に方向転換できない訳

In or Out?

2019年4月4日(木)16時30分
オーエン・マシューズ

ブレグジット推進派が英議会付近でデモ(3月29日) Alkis Konstatinidis-REUTERS

<世論調査で「残留」が「離脱」を逆転――それでもメイ政権が固執するのは、失敗すれば保守党が分裂・崩壊するからだ>

イギリスの有権者は、ブレグジット(英国のEU離脱)に関して考えを変えたようだ。

英国社会研究センターの2月の世論調査によれば、いま国民投票が実施された場合にEU残留に投票する人が55%なのに対し、離脱に投票する人45%。ストラスクライド大学(グラスゴー)のジョン・カーティス教授の調査でも、残留支持が53%、離脱支持が47%となっている。残留派が48%、離脱派が52%だった16年6月の国民投票とは賛否が逆転した形だ。

カーティスがBBCへの寄稿で指摘しているように、「2度目の国民投票を行えば前回と逆の結果になると、残留派が確信できるほどの差はない」。しかし「(16年から)世論は変わっていないと離脱派が確信できる状況でもない」。

テリーザ・メイ首相は、EUとの間で昨年まとめた離脱協定案の承認を議会に求めてきたが、議会はこれまで2回それを突っぱねていた。そして、3月29日に行われた3度目の採決でも、議会はメイの協定案を否決した。

こうした議会の姿勢は、世論の風向きを反映している。2月の英国社会研究センターの世論調査によれば、離脱交渉でEUから好ましい条件を引き出すことはできないと考える人が回答者の63%に上っている。好条件を引き出せると考える人は、6%だけだった。

2年前とは状況が大きく変わっている。17年2月の同センターの調査では、有利な合意を結べると考える人が33%、不利な合意を結ばざるを得なくなると考える人が37%と、国民の見方は拮抗していた。

また、今年2月の調査によれば、国民投票で離脱を支持した有権者の80%は、政府がEUとの交渉に失敗したと考えている。この割合は、2年前の調査では27%だった。

国民投票での約束はほご

英政府は国民投票で示された民意を理由に、ブレグジットに向けて動いてきた。離脱中止を求める600万人近いオンライン署名に対して、政府は次のように返答した。「(離脱を実行しなければ)政府が国民に約束したことが履行されず、民主的な投票によって明確に示された民意がないがしろにされる。そうなれば、民主主義への信頼が損なわれる」

3月23日にロンドン中心部で実施された推定100万人のデモ参加者など、再度の国民投票を求める人たちは、離脱派から「民主主義の敵」というレッテルを貼られてきた。

「端的に言えば、デモ隊は民主主義を否定し、民主的な国民投票の結果を実現させないために行進している」と、与党・保守党内の離脱推進派であるマーカス・フィッシュ下院議員は英テレグラフ紙に語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中