最新記事

軍事

米中「新冷戦」はもう始まっている

A NEW COLD WAR HAS BEGUN

2019年2月7日(木)17時15分
ロバート・カプラン(地政学専門ジャーナリスト)

中国とASEANが広東省湛江の軍港で行った初の共同海洋演習の開幕式(18年10月22日) REUTERS

<貿易戦争と並行してアメリカと中国の軍隊が西太平洋とサイバー空間でしのぎを削る>

「中国とはこうして戦え」と題して私がアトランティック誌に寄稿したのは、05年6月のことだ。当時の米軍はまだ中東地域などの武装勢力と乱戦を繰り広げていたが、「21世紀は中国との軍事的対決の時代になる。中国はかつてのロシア以上の恐るべき敵となるだろう」と私は指摘した。そして未来の戦闘は遠隔誘導システムを駆使した海戦になると予想した。

その「未来」が今ここにある。まさに冷戦状態だ。今もどこかで中国側が米軍艦艇の保守点検記録や国防総省の人事データをハッキングしている。中国は西太平洋(東シナ海と南シナ海)からアメリカの海・空軍を追い出そうと固く決意している。一方のアメリカも引き下がるつもりはない。

中国側の視点に立つと、中国の主張は完璧に筋が通っている。19~20世紀初頭にアメリカがカリブ海を見つめて描いたのと同じ戦略を、今の中国も南シナ海について想定している。つまりこの海域を大陸の領土の延長と見なしている。そこを制すれば中国の軍艦も商船も太平洋やインド洋に進出できる。台湾を牽制することもできる。

カリブ海を支配した結果、アメリカは西半球を制し、2つの世界大戦と冷戦を通じて東半球の勢力均衡にも影響力を行使できた。アメリカはカリブ海経由で勢力圏を広げた。同じことを、中国は南シナ海でするつもりだ。

米国防総省の見解によれば、技術大国として台頭した中国はアメリカが進める5Gネットワークやデジタル戦システムに追い付け追い越せの勢いだ。中国には挙国一致の強みもある。

しかも米中間の経済的な緊張が大幅に緩むことはあり得ず、軍事情勢を悪化させる方向に働く。昨年秋には南シナ海で米中の駆逐艦同士が異常接近、また香港で米強襲揚陸艇が寄港を拒まれるという事態も生じた。

通商と軍事は別問題ならず

自由な世界秩序が弱まるなか、歴史的にありがちな地政学的対決の時代が始まった。通商関係の緊張はその付帯現象にすぎない。本当に現実を理解したいなら、米中の貿易関係と軍事関係の緊張を別扱いしてはならない。

新冷戦には思想的な側面もある。中国が破竹の成長を遂げることを、アメリカは数十年にわたって肯定的に受け止めてきた。鄧小平以降の指導者による強権的とはいえ啓蒙的な思潮にも、特に米経済界はすんなり対応した。

だが習近平(シー・チンピン)政権は露骨な強権体制へと進化した。以前のようにカリスマ性を欠くテクノクラートの面々が対等な権限を持ち、定年制に従うような指導部ではない。今は終身の国家主席が個人崇拝される時代、顔認識システムで国民を監視し、個人のネット検索履歴を追跡して思想を統制する時代だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中