最新記事

動物

他人事じゃない? 中国のイルカやシャチのショーに欧米から批判、マリンパーク急増で

2018年9月30日(日)20時30分

上海で建設中の海昌海洋公園のオーシャンパーク。8月撮影(2018年 ロイター/Aly Song)

屋内に設置された明るい水色のプールから、8頭のシロイルカが尾びれをひるがえし、大きな水しぶきをたてて、一斉にジャンプした。満員の観衆は大喜びで拍手し、写真を撮影している。

中国南部の海沿いの町、珠海にある珠海長隆海洋王国で行われているこうしたイルカショーが、いま中国全土に新設されているマリンパークで広がりつつあり、希少な海洋生物に対する需要が急増していると、科学者や実業家、活動家が指摘している。

シャチやシロイルカなどの海洋生物を巡っては不透明な取引が行われており、1頭あたり数億円単位で取引されることもあるという。また、違法に捕獲されていることが多い。

中国各地では、毎月のように新たなマリンパークや水族館がオープンしており、今後2年で36件以上の大規模施設の建設が予定されている。生きた動物を使ったショーが、幅広い反対によって取り止めになっている欧米の状況とは、対照的な動きだ。

「西側諸国ではマリンパークを成功裏に閉鎖させてきたが、中国は、『今度は自分たちの番だ』と言わんばかりだ」と、動物愛護団体ドルフィン・プロジェクトの創設者リック・オバリー氏は語る。

国内旅行ブームに後押しされ、テーマパーク運営・不動産開発を手掛ける海昌海洋公園<2255.HK>や広州富力地産<2777.HK>、大連聖亜、長隆グループといった企業が、この業界の急成長を牽引している。

海昌海洋公園が11月にオープンする予定の上海海陽公園や、長隆海洋王国では、中国初となるシャチショーの準備を進めている。

1970年に海洋哺乳類の捕獲に反対する運動を立ち上げる以前には、イルカやシャチの捕獲や訓練を担当した経験のあるオバリー氏によると、この業界をいま世界的に牽引しているのが中国だという。

中国では、長隆海洋王国のような大規模施設から、他の集客施設に付随した小規模なものに至るまで、すでに60カ所のマリンパークが営業していると、業界幹部は話す。

長隆グループや海昌海洋公園、大連聖亜、中弘グループ、日照海洋公園は、ロイターの複数回の取材依頼に返答しなかった。広州富力地産は、自社が計画を進めるマリンパークでは、鯨類は救助されたものか、定評ある動物園か水族館から提供を受けたものしか受け入れないと回答した。

中国各都市は、知名度を高めて注目を集めるためにマリンパーク計画を立ち上げ、デベロッパーに格安で広い土地を提供したり、格安融資を提供することが多い。

水族館施設の建設は、地方自治体政府から土地を取得するための合意全体の中の「おまけ」的な位置づけであることが多い、とアジアでテーマパーク開発に携わるアペックス・パークス・アンド・エンターテインメント・サービスのノーブル・コーカー社長は指摘する。

デベロッパーは短期間で開発し、住宅や商業施設を売却することで利益を得る。マリンパークのような施設の建設費用は、不動産の売却益でまかなわれることが多いと、コーカー社長は語る。

「デベロッパーのインセンティブはすべて短期的なものばかりだ。20年単位に及ぶマリンパークや水族館のモラルや倫理的影響を巡る問題は、まずめったに検討されない」と同社長は言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英軍個人情報に不正アクセス、スナク氏「悪意ある人物

ワールド

プーチン大統領、通算5期目始動 西側との核協議に前

ワールド

ロシア裁判所、JPモルガンとコメルツ銀の資産差し押

ビジネス

UBS、クレディS買収以来初の四半期黒字 自社株買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    「ハイヒールが効率的な歩行に役立つ」という最新研究

  • 8

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 9

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中