最新記事

非核化

米朝首脳会談、トランプの耳に囁かれる「平和条約」という落とし穴

2018年6月7日(木)16時25分

6月5日、来週12日の米朝首脳会談で、朝鮮戦争を正式に終結する平和宣言を、自らの提案通りに実現するならば、トランプ大統領はテレビ向けに用意された世界の大舞台で大いに注目を浴びることになるだろう。写真は板門店を警備する韓国軍兵士。4月撮影(2018年 ロイター/Kim Hong-Ji)

来週12日の米朝首脳会談で、朝鮮戦争を正式に終結する平和宣言を、自らの提案通りに実現するならば、トランプ大統領はテレビ向けに用意された世界の大舞台で大いに注目を浴びることになるだろう。

だが、非核化交渉において、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長から大幅な譲歩を引き出すことができない場合、この歴史的会談の広告価値も、すぐさま色あせてしまう可能性がある、と元米当局者や専門家は警告する。

トランプ大統領は北朝鮮・朝鮮労働党中央委員会の金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長と1日会談した後、迅速かつ完全な非核化を求めてきた姿勢を突如、後退させたようにみえる。

その代わり、シンガポールで開かれる史上初の米朝首脳会談における最も現実的な成果は、厳密にはいまだ戦争状態にある朝鮮半島の状況を「文書に署名」して終わらせることだ、と大統領は示唆した。朝鮮戦争は65年前、平和条約ではなく休戦協定によって終わりを迎えた。

トランプ氏はそのことを、首脳会談の外交的な成果だとアピールする手段として捉えているかもしれない。だがそれは、北朝鮮が何十年も追い求めてきたが、核兵器放棄への合意なくしては不可能だと歴代米政権が堅守してきたものを同国に与えてしまうことを意味する。

たとえ条約まで至らなかったとしても、戦争終結を宣言することは、今後の非核化交渉において、もし北朝鮮が譲歩しなかった場合、米国の優位性を損なう可能性があると、専門家は警鐘を鳴らす。また、北朝鮮が、韓国に駐留する米軍の撤退や米韓合同軍事演習の停止を要求する上で、同国により強力な立場を提供することになりかねない。

とりわけ米国本土まで到達可能だとする北朝鮮核ミサイル開発の阻止に手を焼いている中で、トランプ政権内部でも、こうした可能性を巡って疑念が生じている。

「平和条約となれば、それは大きな成果だ」と米朝首脳会談の準備にかかわる米当局者は言う。「だが、北朝鮮の核プログラムや兵器・技術輸出によって周辺国や他の国々にもたらされている脅威が、それで後退することになるかは全く確信がもてない」

実際に、北朝鮮が核放棄の意思を何も示していないこの段階において、共同平和宣言のようなものを出すことは時期尚早だと、同国との交渉に携わったエバンズ・リビア米元国務次官補代理は指摘。「シンガポールで米大統領がはまりかねない数多くの落とし穴の中でも、これは最大級のものだ」とリビア氏は語った。

しかしトランプ氏の側近らは、早期の和平合意により、緊張が緩和し、将来の核交渉に道を開くことで、「敵対的な」米国からの攻撃を阻止するには核プログラムが必要だとする北朝鮮の主張をひっくり返すことが可能だと話す。韓国に駐留する2万8500人規模の米軍部隊は、朝鮮戦争(1950─53年)の遺産と言える。

米ホワイトハウスはコメント要請に応じなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中