最新記事

農業

チョコ原料の甘くない現実 フェアトレード制度はカカオ農家を救えるか?

2018年5月5日(土)18時00分


人気急落

独立認証団体は、カカオ豆を公正な方法で生産している農家に対して認証を与えている。その豆を調達したチョコレート会社は、製品に認証マークをつけて、倫理的に生産された商品であることを消費者にアピールできる。

だが、生産者の生活賃金改善を認証モデルの中心に据えるフェアトレードは、利用企業の拡大に苦戦している。UTZの市場シェアが2013年の48%から2016年は60%に拡大したのに対し、フェアトレードは、シェア12%から15%への増加にとどまった。

「フェアトレードの基準は、価格急騰の際にはうまく機能する。だが、ビジネス合理性が低いと考える企業も多い」と、英シンクタンク、オーバーシーズ・デベロップメント研究所のアートリ・クリシャン氏は語る。

フェアトレードは、カカオ豆1トンあたり2000ドルの最低価格と、200ドルの固定プレミアムをそれぞれ義務付けている。

世界2大生産地のコートジボワールとガーナでも、最低価格が設定されているが、世界市場を考慮して毎年調整されている。昨年の価格崩壊を受け、コートジボワールは最低価格を3分の1以上引き下げ、1トン1290ドルとした。

フェアトレードは、最低価格と固定プレミアムの設定により、世界的な価格急落に対する極めて重要なセーフティネットを提供し、農場に長期投資を行うために必要な安定性を農家が確保できると胸を張る。

だがそのモデルは、2020年までに野心的な自己目標達成を目論むチョコレート会社にとって、魅力に欠けるようだと専門家は指摘する。

「(目標期限は)すぐそこに迫っている。チョコレート会社は、認証カカオの調達を大幅に増やさなくてはならない」と、前出のストヤン氏は言う。「だがフェアトレード認証を通じたカカオ豆の販売拡大は、難航している」

フェアトレード認証を受けた農家が生産したカカオ豆は、2016年は約30万トンと、世界生産の6%程度だった。だがフェアトレードのデータによると、同認証のラベルを付けて販売された量は、その半分でしかない。

余った認証カカオ豆は、より安い一般市場での売却を余儀なくされることが多い。このため、ロイターの試算では、フェアトレードの生産者が受け取る認証カカオ豆1トンあたりのプレミアムは、1トンあたり平均94ドルになる。

なかには、複数の認証を取得している生産者もあり、余剰分はUTZやレインフォレスト・アライアンスの認証分として販売することもある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国全人代常務委、関税法を可決 報復関税など規定

ビジネス

物価の基調的な上昇率、見通し期間後半には目標と概ね

ワールド

エクイノール、LNG取引事業拡大へ 欧州やアジアで

ビジネス

赤沢財務副大臣「特にコメントできることない」、日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中