最新記事

農業

チョコ原料の甘くない現実 フェアトレード制度はカカオ農家を救えるか?

2018年5月5日(土)18時00分

フェアトレード認証マークが付けられたチョコレート。ロンドンで2017年4月撮影(2018年 ロイター/Neil Hall)

世界のチョコレート会社は、貧困撲滅に向けて導入された認証制度を通じたカカオ豆の調達を増やしており、2020年までにより倫理的なサプライチェーンを構築するという自ら掲げた目標の達成を急いでいる。

しかし、カカオ農家を悩ませているのは、こうした倫理的で持続可能な生産支援制度下で支払われるプレミアムが低下していることだ。

森林破壊や児童労働、低賃金に対する業界の取り組みが不十分だとの強い批判を受け、米マースからハーシー、伊フェレロに至る大手チョコレート会社は、2020年までに倫理的かつ持続可能な原料調達へ完全に切り替えると表明している。

こうした企業による買い付け増加で、フェアトレードやレインフォレスト・アライアンス、UTZ認証などの団体から持続可能との認証を受けた農家によるカカオ豆供給は、ここ数年で急増している。

これら主要3認証を通じたカカオ豆の売上げは、2013年の56万4769トンから、2016年は95万3458トンに増えた。これは、世界全体のカカオ供給の20%を占める。

だが、業界最大の認証スキームで、世界の独立系認証カカオ豆の半分以上を取り扱っているUTZ認証のデータによると、農家がこうした認証を得たカカオ豆から受け取るプレミアムは、この5年間で約3分の2に減少した。

「現在の状況は、バリューチェーンの長期的な持続可能性を損なうと考えている」。メーカー100社以上が加盟する世界カカオ基金(WCF)のティム・マッコイ氏はそう語る。

UTZ認証が今週公表したデータによると、同認証を得たカカオ豆の販売で農家が受け取るプレミアムは、2013年の1トン当たり122ユーロ(約1万5000円)から、昨年は83ユーロにまで減少している。

認証農家は、生産した全てのカカオ豆をUTZ認証制度を通じて販売するわけではない。その他のカカオ豆がプレミアム抜きの一般市場価格で販売されると想定したロイターの試算によれば、2017年の平均プレミアムは、1トン当たり67ユーロにとどまる。

「UTZは、取引者数が多いが、その影響力は低下している」と、カカオ農家の収入向上に取り組む団体、カカオ・フォア・チェンジの創設者フェルナンド・モラレスデラクルス氏は言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中