最新記事

テクノロジー

ホロコースト生存者とVRでリアルに対話

2017年11月11日(土)15時00分
スタブ・ジブ

magw171111-holo02.jpg

カメラの前で話すガター MUSEUM OF JEWISH HERITAGE

双方向の対話ができるのは、音声認識と自然言語処理システムのおかげ。アップルのパーソナルアシスタントSiri(シリ)がユーザーの質問に答えるのと同じ仕組みだ。解析不能な質問には「もう一度言ってもらえますか」などと反応する。質問に合った返答が見つからなければ、「とても良い質問ですが、私にはうまく答えられません」とお茶を濁す。

映像の制作には100台余りの高解像度カメラを使用。360度のアングルから証言者を撮影した。このプロジェクトの最初の証言者となったガターは「最も恐ろしい体験は?」「好きな映画は?」など、ざっと1900もの質問に答えた。質問に耳を傾けるように、黙ってじっとカメラを見つめる様子も撮影された。

話し手を身近に感じる

これまで学校などで行われてきたホロコーストの証言活動をいつでもどこでも行えるように、この技術を開発したと、NDTのコンセプトの生みの親ヘザー・マイオは語る。「(ガターらの元には)各地の学校から教室に来て生徒たちに話してほしいという依頼がひっきりなしに来る。体験者の話を聞くことは深い学びにつながるからだ」

マイオらはデジタル技術を介しても、体験者の証言はインパクトを持つと考えている。だが、対面での語りのような共感は引き出せないという見方もある。

テレビやゲーム、インターネットに費やす時間の増加が若年層の共感能力の低下をもたらしているといった議論は以前からあった。だがネット上でのコミュニケーションが人々の行動に及ぼす影響を調べているインディアナ大学の研究者セーラ・コンラスは、技術の利用に必ずしも否定的ではない。デジタル技術は「ツールであって、問題はどう使うか」だからだ。

シリアのアレッポの現状をバーチャル・リアリティー(VR)画像で見た人たちは、通常の画像を見た人より難民支援団体に寄付する確率が高いことを示した研究もあると、コンラスは言う。

ガターの証言の初期の試作版を見たコンラスは、対面で話を聞いたような印象を受けたという。「彼に好感を持ち、彼のことを知りたいと思った」

そこまで来れば、彼の体験を理解し、深く共感するところまではあと一歩だ。

NDTではこの技術を使って、これまでにホロコーストの生存者13人の映像を制作した。中国の南京大虐殺記念館でも、双方向展示のために大虐殺の生存者の証言映像を制作している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中