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監督インタビュー

「路上の子供たちは弱者じゃない」 話題作『ブランカとギター弾き』の長谷井宏紀監督に聞く

2017年8月2日(水)11時30分
大橋 希(本誌記者)

――スラムのどんなところに引かれるのか。

ここ4、5年、エミールたちと出会った後かな、ビーチでリラックスするということを覚えたけれど、それまではずっとスラムだった(笑)。彼がモンテネグロにホテルを持っていて、そこでぼーっとするとか、だいぶそういう旅を覚えてきた。

スラムでは、やっぱり人間同士が近い。そこってすごく大事なポイントだと思うんですけどね。人間の1日、例えば都会で暮らしている24時間の営みの中で、人間同士が近い時間ってどのくらいあるのかな。その時間を増やしていったほうが社会はよくなるんじゃない?

インスタグラムとかフェイスブックとか、ああいうつながりじゃなくて、もっと根源的なところで人間はつながっている。そこをもっと信頼したほうがいいんじゃないかな。仕事をするときも、僕はそういうのを大事にしたい。

――盲目のピーターは、残念ながらベネチア映画祭での上映後間もなく亡くなってしまった。路上でギターを弾いていた彼とは以前からの知り合いだったそうだが、彼を「ヒーロー」と言っているのはどういう意味で?

やっぱり強く生きている人ってかっこいいし、エネルギーにあふれている。ピーターに出てもらったのは自分が尊敬している人を撮りたいな、って思ったから。映画って被写体を尊敬したり、愛したりしないと撮れない。そうじゃないと画面に表れちゃう。1本撮ったくらいで偉そうなことは言えないんですが。

【参考記事】生まれ変わった異端のダンサー、ポルーニンの「苦悶する肉体」

――ピーターのような人は「社会的弱者」とも言われる。でもあなたは「弱者」とは捉えていない?

僕からすると、システムに24時間支配されている人のほうが弱者だと思う。この手の映画を撮るときに上から入っていき、「はい、かわいそう」で終わってしまうのはとても簡単なこと。でもその描き方って、「私たちは持っている、あなたたちは持っていない。だからかわいそう」というもの。

じゃあ、「持っている」とは一体何なのか? 持つ社会とは何なのか? こういう映画を見て、その感覚がひっくり返ったりしたら嬉しい。

――キャスティングはフィリピンのストリートの子供たちに声をかけていった?

もう、毎日最高でしたよ。楽しかった! 道ですれ違った瞬間に「え?」ってなったら、追いかけていって。「映画とかやってんだけど」と声をかけて、せりふを渡して「アクション!」――それを2カ月くらい、マニラのいろんな町でやった。トンドという大きくなスラムがあるんですけど、そこを重点的にね。

こういうアプローチの映画をこれからも作っていきたいと思う。世界中のいろんな所で、いろんな状況で暮らしている「弱者」と言われる人たちがいる。でもそれは弱者じゃないと僕は言い続けて行きたい。

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