最新記事

法からのぞく日本社会

「線路立ち入りで書類送検」が他人事でなくなる侵入禁止リスト

2017年2月15日(水)16時22分
長嶺超輝(ライター)

■罰金50万~1万円

<空港の滑走路などへの無断立ち入り>
(航空法150条3号の3・53条3項)

→ このほか、空港の着陸帯(滑走路周辺の敷地)、誘導路、エプロン、格納庫などに、みだりに立ち入ることも禁じられている。

<高速道路・有料道路への無断立ち入り>
(高速自動車国道法30条・17条・18条、道路法105条・48条の11・48条の15)

→ ただし、立ち入りですぐに犯罪となるわけでなく、退去命令が出ても従わない場合に処罰される。命令を出すのは、高速道路では道路管理者(NEXCO)、有料道路では国土交通大臣とされている。

■過料5万円以下

<原爆ドームへの無断立ち入り>
(広島市公園条例19条2号・5条5号)

→ 地方自治体が独自に規制している例である。そのほか、全国各地の漁港などで、地元の自治体が独自に立入禁止区域を設定している例がみられる。

■拘留29日~1日 または科料(9999円以下) あるいは拘留と科料の両方


<廃屋・廃船などへの無断立ち入り>
(軽犯罪法1条1号)

→ 人が管理していない空き家や廃墟などに、正当な理由なくひそむ行為を処罰する規定である。

<行列への割り込み>
(軽犯罪法1条13号)

→ 日本の法体系においては、マナー違反では済まず、犯罪となる。行列の中へ「威勢を示して」横入りしたり、列を乱したりする行為を処罰する。

<他人の田畑や立入禁止場所への無断立ち入り>
(軽犯罪法1条32号)

→ 「田畑」の持ち主について、農業のプロかアマかは問われないので、他人の家庭菜園への立ち入りも含まれると考えられている。また、果樹園もここにいう「田畑」に含まれる。

看板などで「立入禁止」と明確に示されていなくても、柵やロープなどで空間が区切られている場所や、施錠されたクルマの中、回送中の電車内も、軽犯罪法でいう「立入禁止場所」と解釈される可能性がある。

クルマの運転手や同乗者でもないのに、用もなく月極駐車場やコインパーキングに立ち入る行為も、本来は犯罪である。ただ、駐車場の自動販売機でジュースを買ってその場で飲むぐらいなら、おとがめ無しであろう。

■科料(9999円以下)

<線路への無断立ち入り>
(鉄道営業法37条、罰金等臨時措置法2条3項)

→ なお、すでに廃線となった線路への立ち入り行為は、鉄道営業法違反にはならずとも、「立入禁止場所への立ち入り」(前出の軽犯罪法違反)となりうる。廃線の線路が敷かれている土地は依然として鉄道会社が所有している場合があるし、別の企業などに譲渡されていることもある。自由に入っても構わないとの掲示がない限り、念のために許可を取っておきたい。

【参考記事】ニッポン名物の満員電車は「自然となくなります」

◇ ◇ ◇

こうした罰則をいちいち列挙することは、一見するとバカバカしい。「どうして、滑走路より線路のほうが、こんなに刑罰が軽いのか。立ち入る行為の危険性は大して変わらんだろう」などの疑問も残るのだが、こうしたルールを正確に知っておかない限り、いつ何どき、警察官に逮捕や書類送検をされてもおかしくない。

たくさんの「いいね!」やリツイート欲しさにSNSに掲載した、たった1枚の写真のせいで、一瞬にして社会的な信用性が崩壊するリスクは誰にでもある。

罰則を知ることは、自由を知ることでもある。

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中