最新記事

禁断の医療

「若い血を輸血して老化を防止」事業者に聞いた「効果ある?」

2018年2月27日(火)19時25分
ザック・ションフェルド

人気ドラマ『シリコンバレー』で描かれたような若返りのための輸血が現実に? John P. Johnson/HBO

<お値段8000ドル。若者の血漿成分を輸血することで健康で丈夫な体を取り戻せる......かも? 医師が立ち上げた若返りビジネスの未来>

若い血液を輸血すると、認知機能や神経機能の若返りに効果的──。14年、そんな注目の研究結果が発表された。米スタンフォード大学の研究者らがマウスに若い個体の血漿成分を注入したところ、「シナプス(神経細胞同士の結合部分)の可塑性を若返らせ、認知機能を向上させることが可能」だと分かったという。

同じことが人間にも当てはまるはずだと、ジェシー・カーマジン(33)は考えている。同大学で医学を学んだ彼はアンブロージア社を立ち上げ、16~25歳の若者の血漿成分を輸血する「臨床試験」を開始。倫理審査はクリアしており、35歳以上で費用8000ドルを払えば誰でも参加できる。

カーマジンによれば、顧客の大半は健康で定年退職前後。効果は上々で満足度も高いらしい。

しかし一部の専門家は懐疑的だ。スタンフォード大学の神経科学者トニー・ウィスコレーは米科学誌サイエンスに、臨床試験は「人々の信頼に付け入る」もので、メリットを裏付ける「臨床的証拠はない」と語った。

アンブロージアの治療同意書は加齢に伴う病気への効果は保証していないが、「マウスの実験で心臓、脳、炎症値、その他の臓器の若返りを示唆する豊富なデータが得られた」としている(ただし、カーマジンが主張する「独自のデータ」は開示せず)。血漿輸血がもたらす未来について、本誌ザック・ションフェルドがカーマジンに話を聞いた。

――あなたの会社は若者の血漿を輸血する費用として8000ドルを請求しているのか。

そのとおりだ。

――若い血漿を輸血すれば、より健康で丈夫になった気分になる?

そうだ。効果を裏付けるデータは既にあると思う。心臓と脳の健康状態、炎症値、癌のリスクに改善が見られる。マウスの実験に基づいて予測されたとおりのことが起きている。

――本気にしない人も多いかもしれない。まがいものでは?

とんでもない! 実際に当社に来てその目で確かめるといい。希望すれば今すぐ治療を受けることもできる。もっとデータが欲しいというのは分かるが、これは現実の話だ。血液だから多くの人が抵抗を感じても無理はないが、血液を若返りに使うことを適切と考える人には十分現実味がある。

――これまで何人が治療を受けたのか。彼らの動機は?

80人くらいだ。一番多いのは定年前後の50~60代だが、92歳の患者も2人治療中だ。患者のタイプは大きく分けて2つ。1つは健康を維持したい人々で、総じて若めだが、そうでない人もいる。もう1つはアルツハイマー病や糖尿病など何か病気を抱えている人々だ。当社ではどちらも治療している。この治療法の最善の活用法についてデータを集めるためだ。

180306cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版2月27日発売号(2018年3月6日号)は「禁断の医療」特集。頭部移植から人体冷凍まで、医学の常識を破る試みは老化や難病克服の突破口になるのか。それとも「悪魔との取引」なのか。この記事は特集より>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国テンセント、第1四半期は予想上回る6%増収 広

ワールド

ロシア大統領府人事、プーチン氏側近パトルシェフ氏を

ビジネス

米4月卸売物価、前月比+0.5%で予想以上に加速 

ビジネス

米関税引き上げ、中国が強い不満表明 「断固とした措
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中