最新記事

米メディア

ペンタゴン・ペーパーズ 映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話

2018年3月31日(土)12時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

スコッティーは、当然のことだろうが、この提案をはっきりと、しかし気持ちよく、非常に前向きの態度で断わってきた。私たちはしばらく彼なしで仕事を続けたが、しかし私は、問題が存在することを次第に認めざるを得なくなった。では一体、どのような形でこの口火を切ればよいのだろうか?

もちろん私には、ニュースの質を云々するための、洗練された高度な専門知識はなかった。しかし私の観察では、幹部たちの間に優柔不断な態度がはびこっており、これに加えて誤った判断も―特に人事に関して―繰り返されているのが分かった。私は、いわばアドレナリンの不足を随所に感じていたのである。また噂では社会部でも活動の沈滞が甚だしいという。私の所まで届いたある情報によれば、社会部では夜九時を過ぎたら、もう死んだ猫を振り回して放り投げても当たる人が全然いないということだった。

そのうえ、問題は明らかにアル自身にもあった。当時、政府部内で働いていたボブ・マニングが会いに来て、アル・フレンドリーと交替したいと提案してきたこともあった。彼の意見では、自分こそが紙面を刷新し活性化するのに適任だと言うのである。私は言下にこの申し込みを断わったが、このエピソードもまた、心の中に疑惑の種をまくのに十分だった。一九六五年になれば、アルは編集局長を一〇年間務めたことになる。彼が急に老け込んできたという話は、いろいろなところで聞かれた。確かに彼には疲れが見え始めていた。それにともなって、次第に人の意見に耳を傾けようとしなくなっていた。これは、彼のような仕事では非常に困難な状況を招く、まずい事態だった。

彼自身にも不安があったのだろう、毎年二カ月の休暇を取る必要があると宣言して、この期間を妻のジーンと二人で過ごすための別荘地をトルコ国内に購入した。アルは私の友人ではあったが、編集局長という地位は、新聞を毎日発行する上で最も重要な「かなめ」となる役である。そして、このポストを二カ月も空けるという考え方を、私は憂慮した。

これらすべてが明らかな注意信号だったが、どのようにして対処したらよいのか、私は困惑するばかりだった。アルは、貧弱な体制の中で長年素晴らしい仕事をしてきた人物だったし、彼とジーンは二人とも私の最も親しい友人でもあったから、彼を動転させるような仕打ちはしたくなかった。新聞に新しい活力を与える必要があるということを、それとなくアルにほのめかしたこともあるが、その時も彼は私の気持ちを理解しようとせず、私の判断を真剣には受けとめていなかった。そこで、彼が他の人びと、特にウォルター・リップマンと話をして、彼らが新聞の現状についてどのような考えを抱いているか、そして新聞をさらに発展させるために何をすべきかについて意見を求めてはどうかと提案した。アルはこれに同意したが、その時はウォルターはメーン州に避暑に出かけており、彼らがすぐに会うことはできなかった。

【映画評】『ペンタゴン・ペーパーズ』抵抗の物語は今と重なる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、英軍施設への反撃警告 ウクライナ支援巡る英

ワールド

中国主席に「均衡の取れた貿易」要求、仏大統領と欧州

ワールド

独、駐ロ大使を一時帰国 ロシアによるサイバー攻撃疑

ワールド

ブラジル南部豪雨、80人超死亡・100人超不明 避
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中