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連載「転機の日本経済」(3)

ギリシャと日本の類似性──量的緩和による危機の拡大

2015年7月6日(月)18時30分

 この結果、日本国債市場の投資家層は薄くなり、深みもなくなった。日銀だけが味方であるが、それ以外の要素では、日本国債が一旦下落トレンドになったら、そこへ買い向かう投資家は激減したのである。生保に期待する向きもあるが、海外債券へのシフトも徐々に進んでいることから、以前のような役割は期待できないと思われる。また、日本の企業は横並びであるから、一旦、海外債券という流れができてしまえば、いままで、日本国債が中心という習慣に馴染んでいただけの均衡から、合理的にリターンを追う均衡に移ることになり、今後は、生保の行動も変わると思われる。

 したがって、日銀の量的緩和により、国債市場は脆弱化が進められたことになる。この自ら脆弱化した市場を、日銀が自らバブルで膨らませ、そして、自らそのバブルを壊すこととなる。それが量的緩和なのである。

 もし、インフレ率が上がらなかったらどうなるか。一つは出口は永遠に来ない、という形式的な議論もあるが、それこそが、国債市場をもっとも危険な状態に追い込むシナリオだ。つまり、前述のバブルがより一層膨らみ、崩壊するタイミングが遅れるだけでなく、そのインパクトがより大きくなるだけだ。そして、市場の脆弱性もより致命的になっているだろう。したがって、インフレ率が上がらないまま、景気は良いのに、量的緩和を継続することは、国債市場の危機を深めるだけのことなのだ。

 この危機からどうすれば逃れられるか。ギリシャにならないためにはどうしたらよいのか。それは来週議論しよう。(小幡績・慶應義塾大学ビジネススクール准教授)

*連載4回目はこちら→

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