最新記事

連載「転機の日本経済」(4)

財政再建はなぜ必要か──日本がギリシャにならないために。

【小幡績】 国債市場の危機を避けるには国債発行額を減らす、つまり財政赤字を減らすしかない

2015年7月13日(月)20時55分

「唯一の買い手」  量的緩和という名で国債を買い支えてきた日銀 Toru Hanai-REUTERS

 *ニューストピックス「量的緩和後の日本経済」はこちら→

 タイトルと矛盾するが、日本は絶対にギリシャにはならない。民間経済は強いし、徴税システムも効率的に機能している。

 しかし、それにも関わらず、ギリシャ的な問題に陥る可能性がある。それは、本来必要のない危機に陥ってしまうことだ。

 ギリシャは、不必要な粘りで、経済をただ単に悪化させた。欧州の要求する財政再建策を飲み、救済して貰うしか道がないのに、いたずらに交渉を伸ばし、その分だけ、いやその分以上に経済を悪化させ、より経済の立て直しが厳しくなった。

 日本も同様で、国債市場を救うための量的緩和という名の日銀の救済策により、本質的な国債市場の立て直し、財政再建が遅れてしまった。前回議論したように、最も危険なのは、国債市場にリスクが溜まり、またリスク水準が高まるだけでなく、量的緩和の出口において、リスクが何らかの形で破裂することが確実になってしまっていることだ。このリスクを回避する方法はあるのだろうか。

 ほとんど綱渡りのような状況であるが、やるべきことはただ一つ。国債を減らすことである。

 国債市場の危機であるから、国債市場をなんとかするしかない。危機の原因は、国債の投資家が日銀以外にいなくなってしまったことであるから、買い手を探すか、売り手を減らすしかない。買い手は、大幅な値下がり、要は暴落がなくては、新たには現れない。しかも、暴落するとなると、一旦様子見をするから、とことん暴落した後でないと買い手は増えてこない。しかし、暴落を避けるために買い手を見つけようとしているのだから、これは矛盾である。つまり、買い手をただ探しても見つからない。

 したがって、買いたくなるように状況を変化させなくてはいけない。国債の安全性を回復し、日銀の買い支えがなくとも、国債市場が安定することが見通せるような状況にしなければいけない。

 その方法はただ一つ。売りが出なくなれば良い。そのためには、今国債を保有している主体が保有を続けることが必要だが、年金も地方銀行も、規模を縮小していくから、国債の満期に伴う借り換えのための新規発行国債を買う量は、保有してきた量よりも減る。だから、この減っていくことによる需給ギャップを埋めるために、新規国債発行額を減らすしかない。そして、そのためには、財政赤字を減らす以外に方法はないのである。

国を滅ぼすのは累積債務より借金ができなくなることだ

 だから、財政再建が重要なのだ。

 財政赤字を減らす方法は、歳出を削減するか、歳入を増やすかしかない。それにより、国債の新規発行額を減らしていけば、買い手が減少し、買い手の資金量が減少しても、国債の新規発行が何とか消化できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席との関係

ビジネス

インフレ低下の確信「以前ほど強くない」、金利維持を

ワールド

EXCLUSIVE-米台の海軍、4月に非公表で合同

ビジネス

米4月PPI、前月比0.5%上昇と予想以上に加速 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中