コラム

「自動運転があらゆる移動課題を解決する」という期待への違和感

2021年04月14日(水)19時40分

自家用車を高度化させ、自動運転レベル5を追い求めるシナリオの現在地を、ホンダのレジェンドを通して考えてみよう。

レジェンドの自動運転は高速道路上で渋滞により時速30kmを下回った際に機能する。渋滞が解消されて時速50km以上になれば自動運転は解除されるため、運転できるように準備しておく必要がある。価格は1100万円で販売台数は100台限定だ。

現時点では極めて限られた条件下における自動運転だが、社会的に期待されている山間部や過疎地の一般道に導入されるのはいつになるだろうか。そのとき車両価格はいくらになっているだろうか。量産化が実現すれば価格は下がるかもしれないが、当面は都市部のごく限られた富裕層しか手に入れることは難しいのではないだろうか。

自動運転レベル4の車両は、これまで既存の商用車を改造するか、フランスのナビヤ社などから購入しており、国産車は無かった。トヨタ自動車が東京オリンピック・パラリンピックでの活用を念頭に置いて開発を進めており、国産車両実現も間近となっている。しかし、路上駐車された車両を追い抜くことができないなど無人での自動運転は技術的にも法律的にも難しいようで、しばらくは有人での試行が続きそうだ。またこのタイプの車両に関しても、車両価格が問題となっている。

サービス展開へのハードル

自動運転レベル4や5はバスやタクシーのようなサービス形態になると言われているが、持続可能なサービスの構想は描けているだろうか。社会的なニーズの高い中山間地や過疎地の市町村の住民は自動車に頼った暮らしをしているため、自動車の使い勝手を上回るサービスを提供しなければなかなか乗ってもらえない。バス停まで歩けない高齢者も多く、自宅から車両までの補助が必要となるだろう。

バスやタクシーのようなサービス形態で自動運転車両を活用する場合、運転する乗務員のいない状況であったり、事務所で1人が複数台の車両を運行管理しながら走らせることができるだろうか。1人が1台しか見られないようであれば人件費の削減効果は見込めず、余計にコストがかかってしまう。

またサービスを利用料でまかなおうとすると人口密度が必要になる。自動運転を含むモビリティサービスも同様だ。人口密度が低くなると途端に民間サービスとして成り立たなくなる。今日の路線バスは大都市部を除いてほとんどが赤字の状況だ。そして市町村の財政状況も人口減少や高齢化により芳しくない。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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