コラム

ブレグジット反対に舵を切った労働党コービンに勝算あり?

2019年12月11日(水)20時10分

選挙公約として、EU離脱の是非ではなくNHS問題を中心に据えた労働党のコービン党首 TOBY MELVILLE-REUTERS

<EU離脱を強硬に訴えるジョンソン首相を相手に、苦戦する労働党が「国有化路線」へと舵を切った理由>

EU離脱で注目される英総選挙の投票日が12月12日に迫った。圧倒的な首位で選挙戦を折り返したのは、強硬離脱を鮮明にして離脱派を掌握する保守党のボリス・ジョンソン首相。対する最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は2回目の国民投票実施を掲げて残留に舵を切ったものの、主要産業の国有化という公約で肝心の残留派の離反を招いている。残留派の巻き返しは果たして可能なのか。

選挙戦の折り返しで発表された世論調査で、保守党は労働党を11ポイントリード。圧倒的過半数の359議席(過半数は326議席)と予想され、残留派は窮地に立たされている。

コービンは11月下旬、アメリカとの貿易交渉で国民保健サービス(NHS)が俎上に載せられているとして、こう叫んだ。「これは国家に対する裏切りだ。労働党は絶対にNHSを売り渡さない」

NHSは税金や国民保険料で賄われる原則無料の医療サービス。福祉国家「揺り籠から墓場まで」の理想モデルともてはやされたこともある。しかし予算不足で病院の順番待ちリストはイングランドだけでも過去最悪の442万人に達している。

離脱後の自由貿易協定(FTA)をめぐる交渉で米トランプ政権は、NHSも含めた市場へのフルアクセスを要求している。NHSは140万人が働く、世界で8番目に大きい雇用主。医薬品や医療機器の購買力も大きい。

コービンは、保守党によるEU離脱でNHSは民営化され、公共サービスも全て外国に売却されるという悪夢のシナリオを描き出す。反民営化の論理は単純明快。「民営化は、外資が利益を最大化させるためインフラ投資を怠り、価格をつり上げる。そのツケを支払わされるのは国民だ」

今回、労働党のマニフェスト(政権公約)は、資本による収奪を防ぐため電気・ガス、水道、郵便、鉄道や一部ブロードバンドの国有化を宣言。民間企業の株式の最大10%を従業員が集団で所有する包摂的所有基金案も明記した。

分裂する労働党の地盤

経済界にとってコービン政権は、企業活動や市民生活を大混乱に陥れる「合意なき離脱」以上の恐怖だ。コービン政権が誕生したら日系企業は一斉に荷造りを始めるだろう。

保守党のマーガレット・サッチャー元首相の民営化路線を引き継いだ1990年代後半からのニューレイバー(新しい労働党)時代、コービンは下院で500回も党の方針に背いた投票をした筋金入りの社会主義者。だが彼の国有化宣言は新自由主義の先頭を走ってきたイギリスの悲鳴でもある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

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