コラム

高年齢層の雇用拡大は新卒採用にどう影響するか?

2020年09月07日(月)15時15分

少子化が若者の絶対数の減少に繋がったことや景気が少しずつ回復しているなどの影響を受け、新卒者の就職率は年々上昇傾向にある。文部科学省が2019年12月に発表した「学校基本調査」によると、2019年度の大学卒業者に占める就業者の割合は78.0%まで上昇した。また、文部科学省と厚生労働省が今年6月に発表した2020年春に卒業した大学生の4月1日時点における就職希望者の就職率は98.0%と、1997年の調査開始以来最高となった。

高齢者の雇用推進が新規採用や若年者の雇用に与える影響 

では、定年延長を含めた高年齢者の雇用確保措置は新規学卒採用や若年者の雇用にどのような影響を与えるのか。この点に関する議論は、(1)高年齢者の雇用確保措置は若年者雇用を抑制するという主張と、(2)高年齢者の雇用確保措置は若年者雇用を抑制しないという主張に分かれる。

太田(慶應義塾大学経済学部教授)(2012)1は、仕事の量が制限されている状況下で、100%の継続雇用が法律により定められた場合、三つの効果が発生すると説明しており、その内容は次のとおりである。

(1)「若年者」と「高年齢者」の仕事が似通っており、両者が代替可能であれば、継続雇用の促進は若年者の限界生産性(生産要素の投入量を1単位増加させたときに、増えた生産量)を低下させ、利潤最大化を目指す企業は若年者の採用を抑制する効果が発生する反面、両者の仕事が補完的であれば、継続雇用の促進は若年者の限界生産性を上昇させ、採用を増加させる効果に繋がる。

(2)継続雇用の進展により、高齢者が企業内にとどまる傾向が強まれば、その分だけ当初雇うべき若年者の数は少なくて済み、仕事間の代替性とは関係なく、若年採用が抑制される。

(3)人件費が増加することで企業の市場への参入が減少するか、企業の市場からの退出が増加する可能性がある。また、継続雇用が強化されると、企業は生産性の低い労働者までも雇用を維持しなければならなくなり、平均生産性が低下する恐れがある。更に、継続雇用の強化が既存労働者の働く意欲に影響を及ぼすことも考えられる。

次に、上記のような太田の主張を再考しながら、高年齢者の雇用確保措置が若年者の雇用に与える影響に関する先行研究の分析結果を紹介する。分析対象が定年延長や継続雇用された高年齢者のみならず、45歳以上の中高年層の雇用推進が若年者の雇用に与える影響を分析したものが多い特徴がある。

────────────
1)太田聰一(2012)「雇用の場における若年者と高齢者―競合関係の再検討」『日本労働研究雑誌』No.626 pp.60-74.

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、25日に多連装ロケット砲の試射視

ビジネス

4月東京都区部消費者物価(除く生鮮)は前年比+1.

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story