コラム

Microsoftがゲーム大手を7.8兆円で買収。メタバースにその価値はあるか

2022年01月25日(火)15時38分

マイクロソフトが7.8兆円も出してゲーム会社を買った狙いは REUTERS/Dado Ruvic/Illustration


■この記事のポイント

・今のメタバースはブーム。多くが失敗する運命

・ゲームは巨大経済圏に。プラットフォーム覇権争いに

・20年後にはリアルとバーチャルの主従逆転。すべての産業がメタバースに

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

米Microsoftが「コール・オブ・デューティー」などの人気ゲームを手がける米ゲーム大手Activision Blizzardを日本円にしておよそ7兆8000億円で買収すると発表した。Micorosoftにとっては過去最高の買収になる。一般的には、メタバースへの進出をにらんでの買収という解説が多いが、果たして今のメタバースにその価値はあるのだろうか。私は短期的目的と長期的目的の2つの理由から、Microsoftは買収を決めたのではないかと考えている。

メタバースはFacebookが社名をMetaに変更してまで取り組もうとしている事業。同社がここまで本気なのだから可能性があるのではないかということで、ちょっとしたバズワードになっている。年明けにラスベガスで開催された世界最大級の見本市Consumer Electronics Show(CES)でも、メタバース関連の出展で盛り上がっていたようだ。

プレイするだけで稼げるゲーム系メタバース

メタバースとは、少し前まで「仮想現実」と呼ばれていた事業領域。2000年代にSecond Lifeが、2010年代に日本ではアメーバピグが「仮想現実」として一時流行したが、やがて下火になった。今回はVRゴーグルというデバイスの進化という違いがあるものの、内容的にはSecond Lifeやアメーバピグと、そう大きく変わっていない。なのに今、なぜメタバースにこれだけ期待が高まっているのか。Facebookが盛り上げようとしていること以外に、ブームになる理由が私には分からない。

以前のブームとの違いに言及している人がいないか、いろいろ調べてみた。ニューヨークタイムズ出身の有名記者たちが脱サラし自分たちで立ち上げたRe:Codeというブログメディアに「Why you should care about Facebook's big push into the metaverse(なぜFacebookのメタバース事業参入を無視すべきではないのか)」という記事があったので、読んでみた。長文だったが、結論は「Facebookがこれだけの資金を投入するのだから、何か勝算があるのだろう」というようなものだった。

今年がメタバースの本格幕開けの年だと言う人がいるが、とてもそうは思えない。CESで展示されていたメタバース関連製品やサービスのほとんどは、1、2年後に消えて無くなっているのではないだろうか。人間は、メタバース内での活動が中心となり、リアルな現実の活動が二次的になるという「メタバースと現実社会の主従逆転」を主張する人もいるが、今の時点でそんなことが起こりそうには到底思えない。

ただゲームは別だ。

ゲーム自体が仮想空間になり、その中の経済活動は拡大の一途を辿っている。米有力ベンチャーキャピタルAndreesen & Horowitzのポッドキャストa16zによると、ゲームしているだけでゲーマーが収益を得ることができるゲームが増えてきているという。こうしたゲーム系メタバースは「play to earn」と呼ばれ、長い時間プレーしたメンバーにはコミュニティーの盛り上げに貢献したとして、主催者から新規加入者の入会金の一部が支払われるのだという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story