コラム

陸と海の中国封鎖を狙うエスパー長官の意外な訪問先は

2019年08月23日(金)18時04分

トランプ米大統領と握手するモンゴルのバトトルガ大統領(7月31日) LEAH MILLIS-REUTERS

<新米国防長官がアジア太平洋諸国の歴訪で非同盟国のモンゴルを訪問した理由>

アメリカのマーク・エスパー新国防長官は着任早々の8月2日からアジア太平洋諸国を歴訪した。訪問先で特に注目に値するのは草原の国、モンゴルだ。オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国は全てアメリカの同盟国だが、モンゴルだけは異なる。

両国はつい先日、「戦略的パートナーシップ」を結んだばかり。エスパーの「行脚」は、対外膨張を続ける中国を海と陸の両面から牽制する狙いだろう。

まずは海上戦略だ。アメリカとオーストラリアは4日に開かれた外務・防衛閣僚会合(2プラス2)で、「インド太平洋戦略」における協力体制を拡充し、対中包囲網の構築を急ぐことを確認し合った。エスパーは「アメリカは太平洋国家であり、この地域で中国が力によって現状変更を試みることを座視しない。同盟国も同じ考えだ」と明言。マリズ・ペイン豪外相も「国際的なルールに支えられてきたこの地域の繁栄は、アメリカの強い関与なしでは維持できない」と応じた。

中国が推し進める巨大政治経済構想「一帯一路」の影響が太平洋の島しょ国で強まっていることを踏まえた言葉だ。バヌアツでは中国の資金で整備した港湾がやがて中国軍の軍港に転用される可能性がある、とみられている。対中債務が膨らみ、返済不可能になって北京の圧力に屈した結末である。

パプアニューギニアの主要幹線道路は中国政府の支援で建設されているし、トンガでも同様のことが起こっている。いずれも債務返済ができなくなれば、中国に「接収」されかねない。

米豪両国はこうした「海上から迫り来る膨張」に強い危機感を共有している。中国との間で領土問題を抱えている日本も協力を惜しまないだろうが、「自由で開かれたインド太平洋」は言葉が「戦略」から「構想」にトーンダウンし、中国への配慮も見せている。

モンゴルにTHAAD?

陸上戦略は限りなく困難が伴う。エスパーが出発する前の7月31日、モンゴルのバトトルガ大統領は側近である元横綱・朝青龍のダグワドルジらを帯同してホワイトハウスを訪れた。バトトルガはいかにも遊牧民の指導者らしくトランプ米大統領の息子バロンにモンゴル馬を贈った。気分をよくしたトランプは「モンゴルは2つの権威主義的国家に挟まれながらも、自由主義国家としての道を歩み続けている」と、賛辞を惜しまなかった。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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