コラム

ルペンの国民戦線が党名を変更する訳

2018年03月22日(木)17時30分

党大会でのルペン(演説中)Pascal Rossignol-REUTERS

<国民戦線の党首マリーヌ・ルペンが党大会で新しい党名を提案した。その意図と背景は...>

3月10〜11日、フランス北部の町、リールで開かれた国民戦線の第16回党大会。昨年の大統領選挙決選投票でマクロン候補に敗れたものの、党首として再任されたマリーヌ・ルペンの演説を、会場に詰めかけた党員たちは、いつものお祭り気分とは程遠く、息を潜め、耳をそばだてて聞いていた。かねてからルペンが示唆していた党名の変更につき、どういう具体的な名称がルペン自身の口から提案されるか、固唾を呑んで見守っていたからだ。

ルペン党首は、1時間20分にも及ぶ長い演説の終盤になって、今後の党の目指す方向として、これまでの基本路線を踏襲しつつも、政権奪取のため連帯できる勢力との幅広い結集を図るうえで、党名にある「戦線」という言葉は対決的なニュアンスが強く、心理的障害になっているという認識を示した。

これは、むしろ「戦線」という言葉に愛着を持つ、党内の旧守派や古参の党員の神経を逆なでしかねないものであり、会場の党員たちの間に、緊迫した空気が流れ始めたが、その一方でルペン党首が、党の基盤は国民にあり、国民こそ核心であると述べて、「国民」という言葉の意義を強調したときには、会場内から安堵の拍手が沸き起こった。

新しい党名は「国民連合」

こうした周到な準備を経て、ルペン党首が提案した新しい党名は、「国民連合」であった。フランス語ではRassemblement National、国民の結集による連合体という意味だ。これまでの党名、Front NationalのFront(戦線)をRassemblement(連合)に置き換えることによって、これまでの対決と反対の党から結集と連合の党に脱皮するのだという。この新党名の提案は、数週間以内に全党員による郵便投票にかけられ、党員多数の賛同を得られれば、正式に採択される。

ここに至るまでには、昨年5月の大統領選挙での敗北以来、どのようにして党を立て直し、党勢を回復するかが、問われてきた。敗北の総括の中から、主たる敗因として党内外で認識されたのが、第1回投票と決選投票との間に行われた、マクロン候補との一騎打ちのテレビ討論会における、ルペン候補の言動であった。

特にマクロン候補に対する一方的で感情的な政策批判と執拗な人格攻撃は、逆にルペン自身の大統領としての資質に対する疑念を多くの視聴者に植え付けた。またユーロ離脱への固執は、逆にユーロをよしとする国民多数の不安を掻き立てた。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より東京外国語大学教授、2019年より現職。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

KKR傘下のロジスティードがアルプス物流買収へ=B

ビジネス

アジアのデータセンターM&A活発化、AIブームで記

ビジネス

トヨタの今期、2割の営業減益予想 成長領域などへの

ビジネス

郵船、1000億円上限に自社株買い決議 配当予想1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story