コラム

バイデン政権に対する連邦上院の「対中審査」が日本に与える影響

2021年01月02日(土)11時00分

バイデン次期大統領によって発表された政府閣僚は、議会公聴会で何を発言するか......REUTERS/Jonathan Ernst

<バイデン政権の閣僚候補者は、上院承認のための議会公聴会で、対中政策について事細かに回答することが求められることになる。その回答は日本もその影響を真正面から受ける...... >

バイデン次期大統領によって政府閣僚人事が次々と発表されている。司法長官ら一部の主要ポストを除いて大半の人事が発表されるに至り、現在の焦点は閣僚指名された人物が上院承認のための議会公聴会で何を発言するかに移りつつある。

ほぼ全ての閣僚候補者が『対中審査』の設問に応えなくてはならない

今回の議会公聴会での最大の目玉は「対中審査」である。「対中審査」とはマルコ・ルビオらの対中強硬派上院議員による鋭い質問のことだ。これらの対中強硬派上院議員にはネオコン系民主党議員も含まれており、バイデン政権の閣僚候補者は指名承認のために同審査を避けて通ることができないだろう。

従来まで指名承認に向けた公聴会で対外認識が問われるポストは一部のものに限られていた。国防長官、国務長官、国土安全保障長官などのポストでは世界情勢に関する認識が問われており、その優先順位や問題解決の方針について厳しい質問が行われてきた。もちろん、これらのポストに指名された人物は、米国にとって目下最大の問題である中国への対応方針を問われることになるだろう。

ただし、今回の上院承認においては「ほぼ全ての閣僚候補者が『対中審査』の設問に応えなくてはならない」という点に特徴がある。

米国と中国は既に密接不可分なレベルで経済・社会が一体化している。トランプ政権時代にその一部は見直されたものの、依然として中国との関係は切っても切れないものがあり、むしろ分野によっては更に深まる様相すら呈している。

そのため、外交・安保以外をメインとする各省を司る閣僚は自らの所管分野に関する対中政策について事細かに回答することが求められることになるだろう。

たとえば、教育長官は大学組織に対する中国人留学生や中国系組織からの資金受け入れ、商務長官は中国系企業からの物品・サービスの調達可否、財務長官は金融制裁も含めた措置の方針、環境保護局長官は中国の気候変動対応を促す方法、運輸長官は電気自動車を含めた対中連携の是非、労働省はビザ発給方針、厚生長官はコロナ等も含めた国際協力の是非、農務省は大豆を含めた輸出代替先の確保方針など、やろうと思えばほぼ無制限に「対中審査」を行うことはできる。

上院多数派を左右する1月5日の上院特別選挙の結果次第では......

バイデン政権の新閣僚は「対中審査」をクリアしないで上院での承認を得ることが難しいだろう。特に上院多数派を左右する1月5日の上院特別選挙の結果次第では、対中審査は事実上承認の可否を分ける基準となる可能性もある。そのため、バイデン次期大統領はバイデン政権閣僚候補者らとともに綿密に対中政策を練り上げられることが求められる。

全ての政策が「対中政策」を軸として有機的にリンクすることが重要であり、それらを理解できる能力が新閣僚には必要だからだ。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story