コラム

バイデンの「トランプか私かを迷う黒人は黒人ではない」発言の衝撃

2020年05月26日(火)19時30分

トランプ政権はワシントン政治の恩恵を受けてこなかったと感じるアフリカ系有権者層に食い込むためにあの手・この手の作戦を展開してきた。アフリカ系コミュニティが実現を求めてきた刑務所改革、アフリカ系牧師との度重なるホワイトハウスでの懇談、そして今年の一般教書演説でのアフリカ系コミュニティへのコミットメントなど、様々なアプローチを講じてきた。「民主党はアフリカ系コミュニティに貢献したと言いながら、その望みや生活改善に実際に役立ってこなかった、そしてトランプ政権は実際にそれを成し遂げた」、
トランプ政権は同有権者層にこのようなメッセージを送り続けている。

その結果として、最近では「Black For Trump」というトランプを支持するアフリカ系有権者ネットワークが形成されるようになった。つまり、「ワシントンの政治屋は役に立たないので、それを壊してくれるトランプを支持しよう」という動きが現れ始めているのだ。今のところ、アフリカ系コミュニティからの支持率に大きな変化はないが、この動きが加速化した場合、大統領選挙に大きな影響を与える可能性もあり得る状況だ。

共和党としての攻め手が明確になった貴重な瞬間だった

一方、バイデンは新時代のインフルエンサーであるメディアのパーソナリティの存在を軽く扱い、全米黒人地位向上協会やアフリカ系のビジネスリーダーを重視する姿勢を示してしまった。たしかに、アフリカ系コミュニティとの関係性を強調する言動ではあるが、バイデンが示した態度はワシントン政治の悪弊そのものであり、既存の利害関係団体を優先し、メディアの先にいる一般の有権者を軽んじる行為であった。

筆者は、バイデンが持つ「ワシントン政治」の体質が今後露呈していくことで、トランプ陣営からはバイデンが第二のヒラリー化、つまり米国の一般国民から遊離した政治屋として印象付けられていく可能性が高いと思う。

この発言は僅かたった1本のインタビューの中で起きたことに過ぎないが、バイデンが持つ候補者としてのリスク、そして共和党としての攻め手が明確になった貴重な瞬間だったと言えるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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