コラム

日本関連スノーデン文書をどう読むか

2017年05月08日(月)15時30分

第3の文書は2006年5月17日付けで、これも小泉=ブッシュ時代のものである。この文書の意図ははっきりしないが、「分析と精製任務発展戦略」というものがNSAにあり、その一環として国際安全保障問題(ISI)任務が米国の首都ワシントンDCで行われてきたが、それを発展させるということを言っているようだ。NSAの大きな拠点はメリーランド州の本部の他、米国内ではジョージア州、ハワイ州、テキサス州にある。この任務をF6(評価の確定していない新しい情報源)、セカンド・パーティー国(ファイブ・アイズのメンバー)、サード・パーティー国の協力を得て拡大していくとしている。サード・パーティーの協力国は米国の経済、貿易、防衛問題にとって重要な国々で、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ブラジル、日本、メキシコが挙げられている。

大韓航空機撃墜事件で暴露された自衛隊テープ

第4の文書は、2006年7月19日付けで、これも小泉=ブッシュ時代の文書である。1983年の大韓航空機撃墜事件の際、ソ連が撃墜したことを示す音声通信を日本のG2別室(おそらくは陸上自衛隊の調査第二課別室のこと。現在の防衛省情報本部)が傍受し、それが米国で公開されてしまったために日本側が困惑したと述べている。

これは、日本のインテリジェンス研究者の間では以前からよく知られていた事例で、実際このスノーデン文書の最後にもトム・ジョンソンが公刊した本に基づいていることが記されている。

おそらくはNSAも傍受していたはずなのに、なぜ自衛隊のテープが当時の米国で公開されたのか、これまで研究者たちは疑問に思ってきた。米国政府がNSAの能力を隠すためにあえて自衛隊のテープを公開したのではないかと疑われてきた。このテープが公開された後、ソ連が自衛隊の通信傍受能力を警戒したためにその能力は一時的に落ちてしまったと言われている。今回、この文書は、日米の二つのテープのうち、日本のテープのほうが、音質が良かったからではないかと示している点が新しい。

第5の文書は、2007年3月14日付けで、米国はブッシュ政権のままだが、日本は第一次安倍政権に代わっている。これによると、2005年に日米間でELINT(電子インテリジェンス)とPROFORMA(機械同士のデータリンクの信号のインテリジェンス)に関する会議が開かれ、そこであらゆる種類のSIGINTを交換することになり、米国側は偵察航空機RC-135やEP-3で収集した情報を提供し、日本側はYS-11やEP-3で収集した情報を提供したという。これらの偵察航空機は上空で電波を傍受する機能を持っている。文書はこうしたインテリジェンスの共有は「大きなサクセス・ストーリー」だとしている。

第6の文書は2日後の2007年3月16日付けで、これは沖縄のキャンプ・ハンザにあったSIGINT施設を閉鎖し、同じく沖縄のキャンプ・ハンセンに移設したというものである。キャンプ・ハンザにはいわゆる「象の檻」と呼ばれる巨大なアンテナ設備があり、地権者との間で大きな問題になっていた。SACO(沖縄における施設および区域に関する特別行動委員会)はこれを移設することで合意し、移設費用5億ドルは日本政府によって支払われた。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時間後

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story