コラム

あだ名の禁止で、相手が尊重される?──学校の都合に振り回される子供たち

2022年07月14日(木)16時10分
西村カリン
小学校

RECEP-BG/ISTOCK

<「呼び捨て」禁止と「さん付け」指導は、いじめのリスクを回避したいという学校側の短絡的な判断。しかし、本来は自分が呼ばれたい名前が何であるかを、子供たちも交えて議論すべき>

読売新聞は5月28日、「『あだ名』『呼び捨て』は禁止、小学校で『さん付け』指導が広がる」という興味深い記事を掲載した。

記事によると、一部の小学校が「あだ名」「呼び捨て」を禁止した理由はいじめのリスクを低くすることと、相手を尊重すること。だがこの判断は疑問だ。禁止すれば結果的に、あだ名は悪いと印象付けてしまうと思う。

実際はどうかといえば、「良い」「悪い」はどんなあだ名かによるし、本人が嫌なあだ名もあれば、好きなあだ名もある。悪い例があるから全部を禁止するというのは、議論もせず単純な判断をしているだけだ。

学校で子供にちゃんと教えないといけないのは、考えた上で判断することだと私は思う。「0」と「1」の間の「0.5」や「0.7」について考えることもあるので、その場合はどうするか。難しい判断だが、どの基準が最も良いかを議論した上で決めるべきだ。

禁止したら安心だと学校側は思うかもしれないけれど、子供が混乱してしまう可能性がある。学校以外の場では違う判断もあるし、自分の家であだ名で呼ばれる子もいるだろう。

ちなみにうちの子の学校では、あだ名は禁止されていない。長男によると嫌なあだ名はないそうだ。私が生まれ育ったフランスでは一般的に子供をファーストネームで呼ぶが、子供たちの間ではそれを短くするのが普通だ。

例えば、「エマヌエル」は「マヌ」、「リリアヌ」は「リリー」。割とかわいいあだ名で、本人たちはむしろ喜ぶ。それが禁止されたら、良いとは思わない。

やはりあだ名によって判断するのが、正しいやり方ではないかと思う。本人が嫌がるものなら駄目。侮辱したり、体や名前をバカにしたりするのも駄目。

ケース・バイ・ケースだから、面倒くさいと学校側に抵抗があるのは分かるが、教育の面ではそうしたほうがいい。人生は難しい判断の連続であり、学校でも例外ではない。

しかも子供のときに駄目だと言われたことが、大人になったときにいいと言われるなら教育の意味がない。少なくともちゃんとした説明が必要だ。

一部の大企業ではあだ名を決める習慣もある。例えば、楽天。三木谷浩史会長兼社長も含めて全ての社員にあだ名があると、知り合いの社員が教えてくれた。三木谷会長はミッキーだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story