最新記事

日本政治

総務省文書はなぜ流出したか

The Leaked Documents Case

2023年3月30日(木)14時00分
北島 純(社会構想⼤学院⼤学教授)
高市早苗

REUTERS/Issei Kato

<「辞職する」とたんかを切った高市元総務相は、安倍政治「清算」のただ中にいる?>

3月3日の参院予算委員会で立憲民主党の小西洋之議員が質疑に立ち、総務省の内部文書を入手したとして元総務相の高市早苗経済安全保障担当相を追及した。

高市氏は2015年5月、放送法4条が規定する「政治的な公平」の判断基準に関する解釈に実質的な「修正」を加える答弁を総務相として行った。それまでの半年間、礒崎陽輔首相補佐官(当時)の強い働きかけで大臣答弁の原案擦り合わせが行われ、省内や官邸内の慎重論を安倍晋三首相が「正すべきは正す」と最終的に退けた経緯を示す報告書やメモ計78ページ分が流出した。

高市氏は自身に関わる文書4点は「捏造」であると断言したが、総務省は3月7日、これらの文書が総務省保存の行政文書だと認め全文をウェブで公開し真贋の決着を早々につけた。文書の信憑性と内容の正確さは別物だが、「森加計疑惑」における公文書改ざんの轍を踏まないとする判断があったのか、政府内の機微に触れる内部文書がこれだけ大量に黒塗りなしで一般公開されることは珍しい。

焦点となっている放送法の解釈問題は次のようなものだ。同法4条は放送事業者が遵守すべき放送番組編集の準則として「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」「政治的に公平であること」などを定めている。

「個々の番組に対する政治的公平性の判断は非常に難しい。極端な場合を除いて、一つの事例について判断することは相当慎重にやらねばならず、ある期間全体を貫く放送番組の編集の中で判断する」

1964年の参院逓信委員会で郵政省電波監理局長がこう答弁して以来、郵政省の業務を引き継いだ総務省も政治的公平性について「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」という解釈を維持してきた。

ところが、その「極端な場合」という例外を突いてきたのが礒崎首相補佐官だった。流出文書によれば、14年11月に情報流通行政局長にレク(説明)を要求し「番組を全体で見るときの基準が不明確であり、一つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか」と指摘。国会での質問を用意するので、それに対する総務大臣答弁を準備するように指示したという。

「政治的圧力」の衝撃

礒崎氏の働きかけを受けて総務省は「殊更に特定候補者を取り上げる選挙特番など、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼす場合」や「国論を二分する政治的課題について一方の見解のみを支持する番組等、不偏不党の立場から明らかに逸脱している場合」という2つの具体例を示した答弁原案を作成する。高市氏が総務相時代の15年5月に行った答弁はこの原案をなぞったものだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中