最新記事

中国

破滅の加速か、世界秩序の統合か──「大転換」した中国と紛争を避けるには?

RISING POWERS

2022年8月10日(水)11時00分
沈聯濤(シエン・リエンタオ、香港大学アジア・グローバル研究所特別フェロー)、蕭耿(シアオ・ケン、香港国際金融学会議長)
北京証券取引所

昨年11月に取引を始めた北京証券取引所 EMMANUEL WONG/GETTY IMAGES

<世界経済に深く関与することで成長した中国。インドとインドネシアも同様の方法で2025年までに世界トップ5に入ると予想される。平和と繁栄という共通基盤のための多極的国際秩序の確立とは?>

経済学者のフリードリヒ・ハイエクは、1944年の名著『隷属への道』で、中央計画経済と国有化は必然的に苦難と抑圧、専制につながると警告し、自由市場はおのずから福祉全般を最大化させると論じた。

同じ年、経済史家のカール・ポラニーは著書『大転換』で、市場原理と社会は一種の闘争状態にあると主張。資本家は自由市場を通じて社会を搾取し、社会が規制と政治を通じて反撃するというハイエクとはかなり異なる構図を提示した。

80年近くたった今、ハイエクとポラニーの対立をめぐる議論は、中国とアメリカの権力の中枢で繰り返されている。欧米は、ハイエクが唱えた自由主義秩序を基本的に採用した。中国はポラニーの「大転換」理論におおむね倣い、世界最大の経済大国(購買力平価に基づく)になり、貧困をほぼ撲滅した。

もちろん中国の大転換は、経済開放と市場主導の改革なしには不可能だっただろう。このプロセスを可能にし維持する上で重要な役割を担ったのは、アメリカだった。

その技術と軍事力、外交力は世界の安全保障を強化した。米ドルの価値の安定は、国家間の交流を促すことになった。一方、中国経済の力強さは、中国が世界経済に深く関与するにつれ、世界規模の経済成長を促した。

ポラニーの議論が当てはまるのは、中国だけではない。インドやインドネシア、ブラジルといった新興の大国は、富の不平等、環境汚染、生物多様性の消失、地球温暖化など、市場経済による失敗の結果への対処に苦慮している。

協力の場が「武器化」する時

国家には市場操作や外部からの悪影響を是正し、国民の安全と繁栄への期待を満たす能力がある。その力を発揮できなければ、政治への反発を招き、結果として国は衰え、ソ連のように崩壊しかねない。

もう1つ重要なのは、市場と国家の不正をいかに抑制するかだ。国の制度には、それぞれの国によってバランスの取り方がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、来週にも新たな対中関税発表 EVなど戦略分野対

ビジネス

米5月ミシガン大消費者信頼感67.4に低下、インフ

ビジネス

米金融政策、十分に制約的でない可能性=ダラス連銀総

ビジネス

6月利下げへの過度な期待は「賢明でない」=英中銀ピ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中