最新記事

北アイルランド

平和なパレードにゴミ箱を投げつける男性...そこにあった深い文化的背景とは?

Marching Band Chases After Man Who Threw a Trash Bin at Them in Wild Video

2022年7月16日(土)17時08分
サラ・サントラ
オレンジ結社パレード

RogerBradley-iStock

<ベルファストで演奏するマーチングバンドに乱暴を働く男性の動画が拡散。だが彼の行動には、この土地に住む人ならではの理由があった>

北アイルランドの首府ベルファストで、「オレンジメンズ・デー」と呼ばれる7月12日に行われたパレードの動画がツイッターに投稿され、話題となっている。そこに映っているのは、パレードで演奏していたマーチングバンドに向かって、ひとりの男性がゴミ箱を投げつけている様子だ。

■【動画はこちら】マーチングバンドに向かい、突然ゴミ箱を投げつける男性

Aoife (@efaakelly)が投稿したこの動画は、再生回数が1200万回を超えている。また、これをきっかけにツイッター上では、オレンジ結社(the Orange Order)と毎年恒例のパレードに関する熱い議論が巻き起こっている。では、オレンジ結社とは何なのか。

オレンジ結社とは、北アイルランドに住むプロテスタントたちの政治団体だ。名前の由来は「オレンジ公ウィリアム」(1689年にイングランド王ウィリアム3世となった人物)で、結成されたのは1795年だった。

BBCによると、オレンジ公は1690年にイングランド軍を率いてボイン川の戦いに臨み、アイルランド軍を率いたカトリック教徒のジェームズ2世を破ったとされている。オレンジ結社は、カトリックを打ち負かしたことを記念して、毎年7月12日をオレンジメンズ・デーと名づけ、北アイルランド各地でパレードを開催している。

このパレードの目的は楽しく盛り上がることではあるのだが、この地域で現在まで続くプロテスタント系とカトリック系の長く複雑な歴史から、何かと緊張が高まる時期でもある。

アメリカの「アトランティック」誌は、こう解説している。「多くのプロテスタントにとって、このパレードは大切な伝統行事だ。彼らの文化、歴史、価値観そのものであり、1年で最も盛り上がる日でもある」「しかし、北アイルランドに住むカトリック信者にとっては、7月12日のパレードは、祝日どころか挑発だ。(中略)自宅前をパレードが通り過ぎるときには、歓声を上げるよりも、抗議の意を示す人も多い」

今年は近年で最も平和なパレードだった

同誌によると、過去に行われた多くのパレードでは、対立や暴動も起きてきたという。しかしBBCによると、「今年の7月12日は、近年を振り返ってみても、最も安全で平和にパレードが行われたうちに入る」という。それでも、何も起きなかったわけではない。

Aoifeが投稿した動画を見ると、1人の男性が玄関から現れ、家の前にあったゴミ箱を抱えると、前を通り過ぎようとしているマーチングバンドに向かってそれを投げつけているのがわかる。この男性はカトリック教徒に違いないというのが、ツイッターの大方の意見だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材

ビジネス

NY外為市場=円上昇、一時153円台 前日には介入

ワールド

ロシア抜きのウクライナ和平協議、「意味ない」=ロ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中