最新記事

カザフスタン

カザフ騒乱 なぜ暴徒化? なぜロシア軍? 今後どうなる?

Kazakhstan’s Instability Has Been Building for Years

2022年1月17日(月)16時20分
ラウシャン・ジャンダイェバ(カザフスタン出身、ジョージ・ワシントン大学博士課程)、アリマナ・ザンムカノバ(カザフスタン出身の研究者)

ナザルバエフは長期独裁への反発を避けるために2019年に見せ掛けの権力移譲を行ったが、その後も裏で糸を引き続けており、国防・治安を担う最高機関である安全保障会議議長を最近まで務めていた。

特にロシアからは、この手法を高く評価し、「ソ連後」の独裁者の手本だと称賛する声も聞こえてくる。

英ケンブリッジ大学のディアナ・クダイベルゲノワ助教(政治社会学)は、世界はカザフスタンの混乱を大きな文脈の中で捉えるべきだと訴え、次のようにツイートした。

「これは単なる『ガス代デモ』ではない。そうした見方は事態を単純化し、地方知事の選出や議会共和制への移行といった重要な政治改革を要求しているデモ隊の声を奪うことになる」

実際、米NPOのオクサス中央アジア問題協会のデータベースによれば、2018年1月から2020年8月までに中央アジア5カ国で確認された981件の抗議運動のうち、520件がカザフスタンで行われたものだった。

つまり今回の抗議活動は単発の怒りの発露というより、政治的不安定化に向けた流れの集大成なのだ。

オクサスのデータベースに記録されているカザフスタンでの抗議運動の半数は、政治改革や抑圧の緩和を求めるものだった。

これと並行して、人権擁護団体「目覚めよ、カザフスタン!」の設立や、カザフスタン民主党「アク・ジョル(明るい道)」の台頭など政治改革を求める新たな動きも始まっている。

抗議デモには統一性が見られず、参加者の顔触れもさまざまだ。今回のデモは西部の小さな町で勃発し、主要都市を含む全土に急速に拡大したため、参加者たちは統一の目標や指導者を持っていない。

最初のデモは比較的穏やかだったが、最大都市アルマトイでは暴力を伴う騒動に発展した。同市では大規模な略奪が発生したが、それは主に武装した青年たちが通りに繰り出し、銀行や企業、公共の建物に押し入って暴れる形で起きたという。

アルマトイが怒りに燃え盛る背景には、失業問題がある。

ユーラシア経済同盟によれば、カザフスタンの失業率は2021年に12%上昇し、特に貧しい地方から都市部に職を求めて出稼ぎに来る青年たちを直撃した。

コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)などで失業者が増えたことが、こうした青年たちの怒りに火を付けた。

カザフスタンは、平均年齢がわずか30.6歳という若い国だ。

デモ参加者の大部分は若者だが、彼らはなぜ当初の平和的なデモ後に街に繰り出した結果、略奪行為に及んだのか。アルマトイで、警察や武装した治安部隊は政府機関の建物の警備にあまり人員を割いていなかったのはなぜなのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中