最新記事

世界経済

現在の経済混乱は企業が続けてきた「ケチ経営」のツケ、事態はより悪化する

WINTER IS COMING

2021年11月26日(金)16時23分
キース・ジョンソン(フォーリン・ポリシー誌記者)

エネルギー危機は、経済活動再開と新型コロナに伴う問題の2つの側面を悪化させている。

ロックダウンから解放された消費者がカネを使い始めるなか、当然ながらインフレ率は上昇した。だがエネルギー価格高騰は、世界規模でインフレ率をさらに押し上げている。

ユーロ圏の9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.4%上昇し、イギリスのインフレ率は4%を超えると予測される。アメリカの8月のCPIは前年同月比で5.3%上昇。ロシアのコアインフレ率(変動の大きいエネルギーと食品を除く物価上昇率)は7.1%上昇し、中国の生産者物価はこの四半世紀で最速のスピードで伸びている。

一方、エネルギー危機で供給チェーンはさらに危うくなった。中国では計画停電で工場生産が減少し、世界各地の購買者に影響が波及している。欧州では、製鉄業界や肥料メーカーが減産を余儀なくされ始めた。

長いロックダウンや製造・流通の混乱に起因する供給不安定は、経済回復の足を引っ張り続けている。

「長期にわたって繰り返された不安定な封鎖措置は、在庫縮小や輸送能力の低下、労働者の物流業界離れ、原状復帰へのためらいを引き起こした」と、スイス・ジュネーブにある国際・開発研究大学院のリチャード・ボールドウィン教授(国際経済学)は指摘する。「消費が急回復する今、供給網が直撃を受けている」

その結果、半導体をはじめとする重要部品が不足し、ユーロ圏の工業生産は今夏末に減少。経済大国のドイツなどで、消費者信頼感指数が低下している。

「リーン経営」にこだわり過ぎた企業

「多くの企業が(在庫などを削減する)『リーン経営』にこだわりすぎていた。それが問題だ」と、ピーターソン国際経済研究所(ワシントン)のアダム・ポーゼン所長は言う。「過剰なリーン経営は順風が前提条件であり、供給網が混乱した際にはダメージが増幅される」

エコノミストや大手投資銀行、IMFはアメリカやイギリス、中国、および世界全体の成長見通しをわずかながら下方修正している。

それでも「不満の10年」だった70年代と同じ状況になる見込みはかなり薄い。スタグフレーション(インフレを伴う経済停滞)という恐るべき言葉が再び広がっていてもだ。

「いま起きているのは経済国全般における成長の減速だ」と、ポーゼンは言う。「グローバル経済が予測されたほど猛スピードで回復していないという指摘は(70年代のアメリカやイギリスで起きた経済の)縮小を意味しない」

とはいえ、エネルギー危機とモノ不足とインフレ率上昇のトリオには、経済的リスクが付きまとう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中