最新記事

テクノロジー

トヨタが半導体不足で減産する一方、テスラが生産台数を大きく伸ばした理由

2021年10月26日(火)18時40分
竹内一正(作家、コンサルタント)

ソフトウエアから半導体設計まで自前でやるテスラ

モデル3などテスラ車は「走るコンピューター」と呼ばれるが、テスラにはGMといった自動車メーカーからの転職組と並んで、アップルなどのIT企業から移ってきた技術者が多い。その中には半導体開発技術者もいる。

そして、テスラは自動運転開発をスピードアップするために、2つの分野で独自の半導体開発を進めていた。

1つは自動運転用AIプロセッサーで、2016年から開発はスタートし、2019年にテスラ車への搭載を始めた。それまではNVIDIA(エヌビディア)製のプロセッサーを使っていて、性能は21~30TOPS(1TOPSは毎秒当り1兆回の演算能力)だったが、2019年4月に登場したHW3では、テスラが自社設計したAIプロセッサーを搭載し、144TOPSの高い画像処理能力を実現し話題となった。なお、この設計はアップルから来た技術者が携わっていた。

テスラの半導体開発の2つめは、自動運転用AIのトレーニングのためのスーパーコンピューターだ。

テスラは、他社のようにレーザー光を用いたLiDARや超音波などは使わず、高性能な光学カメラによるビジョンオンリー(視覚のみ)の自動運転を目指していている。

そこで、ニューラルネットベースの自動運転技術を訓練するためのスーパーコンピューターが必要だと考え、数年前から半導体開発を続けている。

テスラは、ソフトウエア開発から半導体設計までテスラは自社でやっていたから、他の自動車メーカーでは思い付かない方法で半導体不足に対応できたのだ。

さらに、トヨタなどはコンパクトカーやミニバン、セダンなど数多くの車種を持つが、テスラの販売の主力はセダンの「モデル3」とその派生車種でSUVの「モデルY」の2種類と少なかったこと。生産工場が米国と中国上海の2カ所だけだったこともテスラに有利に働いた。

半導体不足の解消は2022~23年までかかるという専門家の意見がある一方で、イーロン・マスクはこう言い切った。「半導体の問題はもはや長期的な問題ではなく、短期的な問題に過ぎない」。テスラは他の自動車メーカーとは違う次元を走っているのかもしれない。


著者 竹内一正(たけうち・かずまさ)

作家、経営コンサルタント。徳島大学工学部大学院修了。米国ノースウェスタン大学客員研究員。パナソニック、アップル・ジャパン、日本ゲートウェイを経てメディアリングの代表取締役などを歴任。
現在、ビジネスコンサルティング事務所「オフィス・ケイ」代表。著書に『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(ダイヤモンド社)、『TechnoKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』(朝日新聞出版)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 米は歓迎

ビジネス

米マクドナルド、四半期利益が2年ぶり予想割れ 不買

ビジネス

米CB消費者信頼感、4月は97.0に低下 約1年半

ワールド

ラファ侵攻、ガザ休戦合意でも実施=ネタニヤフ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退──元IM…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中