最新記事

新型コロナウイルス

インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われることのない重罪

Modi Fiddles, India Burns

2021年5月12日(水)20時39分
カピル・コミレディ(ジャーナリスト)
インドのモディ首相(2020年8月)

インド独立記念日(8月15日)の式典に姿を見せたモディ首相(2020年) ADNAN ABIDIーREUTERS

<感染爆発で死者急増のインド、その「戦犯」は過信から備えを怠ってきたモディ首相。ただし彼は国民の悲劇を自らの利益に変えかねない>

わが国は「新型コロナウイルスを効果的に抑え込み、人類を巨大な災禍から」救った──。インドのナレンドラ・モディ首相がオンライン会合のダボス・アジェンダ(世界経済フォーラム)で、そう高らかに宣言したのは今年1月28日だ。

それから3カ月。気が付けばインドは世界最悪の感染地となり、医療崩壊が現実となった。首都ニューデリーでは医療用酸素が不足し死亡する患者が続出。最先端の設備を備えた病院でさえ政府に「もっと酸素ボンベを」と訴えている。火葬場はフル稼働で、燃やす場所も薪も足りない。

遺体を自宅の庭に埋める人もいる。路上に薪を積んで遺体を焼く人もいる。首都圏以外の状況はもっとひどい。南インドにいる知り合いの記者は筆者に、「ハエが落ちるように」人が死んでいると電話で伝えてきた。誰の身近にも感染者がいる。5月8日時点の累計死者数は公式発表で23万8000人超とされるが、実数はその20倍とも推定される。酸素や、最低限の医薬品を売る闇市場も出現した。IMFは2015年に、いずれインドは中国以上の経済大国になると予言したが、今のインドは諸外国に緊急援助を請うばかりだ。

未知の病原体だけが、この惨状を招いたのではない。真の原因は、なによりも自画自賛を愛する指導者の行動にある。ダボス・アジェンダでの首相の無邪気な演説を受けて、インド政府は国民に、もう最悪の時期は脱したという取り返しのつかない思い込みを抱かせた。政権与党でヒンドゥー至上主義のインド人民党(BJP)は2月に、「新型コロナウイルスとの闘いに勝利した輝かしい国として、インドを世界に知らしめた首相のリーダーシップ」を称賛する決議を党内で採択した。美辞麗句を並べた決議文には、インドが「モディ首相の有能かつきめ細かく、献身的で先見性のあるリーダーシップ」の下で新型コロナウイルスを打ち負かしたとある。

マスクなしで大規模な選挙集会

3月になると、モディ政権の保健相はインドにおける感染が「終息に向かう局面」にあると発表した。同月、グジャラート州ではモディの名を冠したスタジアムでインド対イングランドのクリケットの試合が開かれ、マスクなしの観客が何千人も集まって大声援を送った。地方選挙の行われた4つの州では、何千人もの与党支持者がバスで集会に動員された。本来なら来年のはずだったヒンドゥー教の祭典「クンブメーラ」も、今年は縁起がいいと言う聖職者らの助言で1年前倒しになり、4月12日には聖地ハリドワールのガンジス川で300万人以上が沐浴した。

その5日後、1日の新規感染者が23万人を超えたという発表があった。それでもモディは西ベンガル州での選挙集会で、「これほど大勢の人が集まるのは見たことがない」と大見えを切った。もう感染症には勝ったと、モディは確信していた。選挙応援の集会は、いわば勝利の凱旋行進だった。

昨年、国内で第1波の感染爆発が起きる1カ月前にアメリカのドナルド・トランプ大統領(当時)を熱烈歓迎したように、モディは今度もイギリスのボリス・ジョンソン首相を招き首脳会談を開く予定でいた。だがインドでの驚異的な感染拡大を受けてジョンソンは訪問中止を決断。さすがのモディも、これで目が覚めたらしい。だが、今さら現実を受け入れても手遅れだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中