最新記事

演劇

「演劇・音楽」分野に蔓延する差別 クラシック界に生きる黒人が起こした行動

Why I Made an R&B Opera

2021年4月15日(木)17時58分
スティーブ・ウォレス(歌手・作曲家)
スティーブ・ウォレス(歌手・作曲家)

大学時代の師との出会いを機にオペラに魅了された COURTESY STEVE WALLACE

<黒人の作曲家・歌手の筆者が、シェークスピア作品でR&Bオペラをつくった訳。黒人パフォーマーには何より活躍の場が必要だ>

私はヒップホップ作曲家であり、オペラ歌手でもある。出身は、クラシック音楽とは縁遠いシカゴのサウスサイド。R&Bやソウル、ジャズ、ゴスペル、ヒップホップのほうが身近な存在だったが、縁あってオペラの世界に進むことになった。

大学入学のために歌唱の実技試験を受けたときのこと。私の声質はクラシック音楽に向かない「ゴスペル的」な声だと白人教授たちは言ったが、有力な黒人教授が異を唱えて私を評価してくれた。

私はその教授の指導の下、オペラが大好きになり、自分で作曲まで始めた。賞も取って、メトロポリタン・オペラのオーディションを受けるようになった。

ところが、あるときメトロポリタンのオーディションで不可解なことが起きた。とてもうまく歌えたと思っていたのに、審査の次の段階に進んだのは、私ではなく、声がかすれていた白人歌手だった。これをきっかけに、私はオペラではなく、ほかの音楽分野に専念するようになった。

歴史上、黒人パフォーマーはとりわけ主体的に道を切り開かなくてはならなかった。映画『スウィート・スウィートバック』(1971年)を自己資金で作ったメルビン・バン・ピーブルズは、それを実践した1人だ。

黒人俳優が依頼されるのは型にはまった役ばかりという状況に辟易したピーブルズは、大手映画会社を離れてこの画期的な作品を作った。かつての「ハーレム・ルネサンス」(20年代のニューヨークで花開いた黒人文化運動)や黒人音楽中心のモータウン・レコードも、同じような覚悟で道を切り開いたに違いない。

私はヒップホップやR&Bの活動を通して創造性の大切さを学んだ。再びクラシックの世界に戻ったとき、創造性は、自分自身や有色人種の人たちがしばしば直面するジレンマを解決するための私なりの手段になった。

黒人が演じる役を増やせれば、私たちの才能が人々の目にもっと触れやすくなり、私たちの物語が語られる機会がもっと多くなるのではないかと考えたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中