最新記事

米中関係

ケリー特使訪中──アメリカ対中強硬の本気度と中国の反応

2021年4月13日(火)22時50分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

解振華はこのオンライン会議でアメリカがパリ協定に戻ってくることを「歓迎する」と表明した。

この一言が欲しかったからだと推測される。

ケリー特使の祖先は上海でリッチになったフォーブズ・ファミリー

それだけではない。

実は200年ほど歴史を遡らなければならないほどの、ケリーと中国の深い縁(えにし)がある。

ケリーのフルネームはジョン・フォーブズ・ケリー(John Forbes Kerry)だ。

つまりフォーブズ・ファミリーの一族なのである。

フォーブズ・ファミリーの財産は、主として19世紀初頭における北アメリカと中国の間でのアヘンとお茶の取引によって蓄えられたものだ。フォーブズ・ファミリーが1840年のアヘン戦争以降にアヘン貿易で設けた財産は、上海の銀行に置いていたらしい。

だからケリーはこれまでも、何かにつけて訪中しては訪問地として「上海」を選んでいた。

今般、中国側代表の解振華と会うのも上海である。

言うならば上海は彼の祖先の故郷、おそらく「心の故郷」でもあろう。

ケリー訪中に対する中国の反応

ケリーは「気候問題で中国と協力するからといって、それは決して中国と妥協したり、取引をしようと思っているということにはつながらない」と言ってはいるが、「果たしてどうだろうか?」というのが中国報道のニュアンスだ。中国側は「上から目線」に立っている。

したがって日本の一部のメディアが報道しているように、中国側に「米中関係の改善に向けた糸口を探るねらいがある」というのは日本側に都合のいい邪推であって、中国のネットでも「ケリー、来るな!」といったトーンのネットユーザーたちのコメントが多い。

要するに、中国側が米中の融和を求めてアメリカにすり寄ったという要素はほぼ皆無で、むしろアメリカが「本当に対中強硬姿勢を貫くつもりなのか」と第三者に疑念を抱かせる要素の方が多いのである。

「ケリー来るな!」が、やがて日本批判に

もっとも、中国のネットでは最初の内は「ケリー、来るな!」だったのに、時間がたつにつれて「おい、ケリーよ!本気で環境問題を考えているのなら、まず日本に行け!原発処理水を海に垂れ流すなと日本に言え!」というのが増え始めた。

「近隣諸国や国際社会に相談もなく、人類共通の海を日本が一方的に汚染させることは許さない!」といった対日批判が湧き出し始めたのだ。中央テレビ局CCTVには日本の福島県の漁業従事者たちの不満の声が「日本語」で流れるので、どの国のテレビを観ていたのかと混乱してしまうほどだ。 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中