最新記事

アメリカ政治

トランプ無罪で終わった弾劾裁判 その後に残された法的疑問と課題

2021年2月20日(土)11時34分

トランプ前米大統領の弾劾裁判は米国の政治を新たな法的領域に引き入れた。写真は1月6日、トランプ氏支持者らに侵入された米議会(2021年 ロイター/Leah Millis)

トランプ前米大統領の弾劾裁判は米国の政治を新たな法的領域に引き入れた。退任間際の大統領による非行の疑いという問題にどう対処するかを巡り、答えが出ないことも浮き彫りにした。

1月6日のトランプ氏支持者らによる連邦議会襲撃について、米下院は襲撃を扇動したとしてトランプ氏の弾劾訴追決議を可決した。しかし、上院の今月13日の評決は有罪支持57、無罪43で、有罪支持が出席議員の3分の2に届かず、無罪となった。

今回の弾劾裁判は以下のような疑問点を提起した。いずれの点も連邦最高裁によって過去に審理されたことはなく、現状では明確な回答を示すことはできない。

退任した大統領の弾劾裁判は合法か

米憲法は退任した大統領が弾劾裁判の対象になることを認めているのか。トランプ氏の弾劾裁判はこの重要な疑問をめぐる論議に火をつけた。

トランプ氏側の弁護団は、上院の権限は現職大統領を有罪にすることに限定されるとし、それは憲法の弾劾条項の文言と目的が明らかにしている、と主張した。

上院は弾劾裁判を進める動議を56対44で可決している。つまり、実質的には、そうした弁護団の主張は退けられた。56人の賛成には法的根拠もしっかりある。この問題を研究してきた法律学者の大半が、今回のような「退任後の弾劾裁判」は合法だとの結論を出している。任期末期に非行を働いた大統領は、大統領の責任を問う憲法手続きから免責されるべきではないという。

結局、この問題は解決されなかったし、法廷に持ち込まれない限りは解決されないままになる可能性が高い。

ミズーリ大学のフランク・ボウマン法律学教授によると、トランプ氏の弾劾裁判での上院の評決は将来に渡って上院議員を拘束するものではない。このため、この問題は将来の何らかの弾劾裁判で改めて検討されるかもしれないという。

「弾劾は一種、政治手続きであって、法的手続きではない」。「この点でいかなる議会も将来の議会を縛ることはできない」というのがボウマン氏の見解だ。

弾劾に値する行為は刑事法違反としての認定が必要か

憲法は「重罪と不品行」を働いた大統領には弾劾ができるとしている。

トランプ氏側は、弾劾相当の行為とは米国の法律で犯罪と見なされるものでなければならないと主張してきた。弁護団もこの論法を取り、米国の刑事訴追上で「扇動」と解釈される行為にトランプ氏は関与していないとし、弾劾不相当だとした。

しかし、ミズーリ大のボウマン氏によると、法学者はこれまで何度もこの主張を否定している。「重罪と不品行」の言葉が使われてきた過去の例からは、実体的には刑事法の範囲を超えることが確立されてきたというのがボウマン氏の主張だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中