最新記事

感染症対策

緊急事態宣言でも収束見えぬ強烈なコロナ第3波 昨秋までの対策成功で危機感に緩み

2021年1月16日(土)12時40分

緊急事態宣言の再発令に追い込まれた日本は、当初の成功が危機感を鈍らせ、状況を悪化させた可能性がある。写真は、2021年1月8日に都内で撮影。居酒屋の店主は、緊急事態宣言の終了まで閉店することを決断した。(2021年 ロイター/Akira Tomoshige)

緊急事態宣言の再発令に追い込まれた日本は、昨秋まで新型コロナウイルスの感染者数を比較的低く抑えてきた。しかし、感染拡大が緩やかだったことが検査体制の拡充と病床の整備を遅らせ、十分な準備が整わないまま第3波を迎える要因になったと、公衆衛生当局の専門家や医師、専門家は指摘する。昨年暮れに感染者が急速に増え始めても、当初の成功が危機感を鈍らせ、状況を悪化させた可能性があるという。

潜在的な影響を過小評価

コロナが世界的に猛威を振るう中で、日本は米国や英国、イタリアなどが導入した厳格な都市封鎖(ロックダウン)を回避してきた。コロナによる死者は14日時点で累計 4315人。米国の1%にとどまり、先進国の中で最も低い水準にある。

しかし、冬に入り日本は強烈な感染第3波に見舞われている。1日当たりの全国の感染者数は平均6400人を超え、最も深刻な東京都は過去最多を連日更新した。

状況が急速に悪化する中、ロイターは10人以上の医師や感染症の専門家、保健当局者に取材した。彼らの多くは、検査の拡充を求める声に対して政府の対応が遅かったこと、全国の検査データをリアルタイムで把握できないことなどを訴えた。半年後に開催が迫った東京五輪・パラリンピックに向け、計画的な対策を打てないのではないかと危惧する意見もあった。

「とりわけ夏と秋にかけたコロナ感染症の潜在的な影響を、日本政府が過小評価していたということだ」と、感染症が専門の岩田健太郎・神戸大学教授は言う。早くから日本政府のコロナ対応に警鐘を鳴らしてきた岩田教授は、日本がこのまま五輪を開催できるかどうかも疑問視する。

感染が収束しない中で観光需要喚起策「GoToトラベル」を推進し、東京都の小池百合子知事ら各地の自治体に押される形で緊急事態宣言を出した菅義偉首相は、感染症対策を巡って世論から批判を浴びている。

共同通信が10日に実施した世論調査によると、菅内閣の支持率は前回12月調査から9.0ポイント下落し41.3%。68.3%が政府のコロナ対応を評価しないと答え、80.1%が五輪の中止あるいは延期を求めた。

検査拡充を求める声

コロナの感染が国内で広がり始めた当初から、日本は他の主要国に比べて人口1000人当たりの検査数が少なく、代わりに集団感染(クラスター)の発見や濃厚接触者の追跡に力を入れてきた。

保健所の職員や医療関係者は、検査体制の拡充をずっと政府に求めてきた。感染の広がりを封じ込めるためには陽性者を見つけ、早めに隔離することが重要だと訴えてきた。

厚生労働省の開示資料によると、1日当たりのPCR検査数は約5万5000件と、能力の半分以下にとどまる。

日本は検査数を増やすため、無料の行政検査に加え、医療機関でない民間施設による自費検査を認めているが、これは政府が集計する公式数字には含まれない。

法律上、民間の検査機関が結果を当局に報告する義務はない。しかし、田村憲久厚労相は1月初めの会見で、民間のデータも集計できるよう検討していくを考えを示している。

「(緊急事態宣言による)行動制限だけで乗り切るというのは、世界的に例がない」と、臨床検査学が専門の宮地勇人・東海大学教授は言う。「足元の急速な感染拡大が収まり、緊急事態宣言が解除された段階で、PCRを受けやすくし、検査を増やすことをしないと、また同じことが起きると思う」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シンガポール航空機、乱気流で緊急着陸 乗客1人死亡

ビジネス

トヨタ、米テキサス工場に5億ドル超の投資を検討

ワールド

米国務長官「適切な措置講じる」、イスラエル首相らの

ビジネス

日産、米でEV生産計画を一時停止 ラインナップは拡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル写真」が拡散、高校生ばなれした「美しさ」だと話題に

  • 4

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 5

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 6

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中