最新記事

人権問題

母国に見捨てられたベトナム漁民200人 インドネシアで違法操業により拘留、コロナ理由に帰国手続きされず

2020年12月17日(木)20時00分
大塚智彦

インドネシア当局に拿捕されたベトナム漁民たちの多くが母国に帰還できないままでいる。 REUTERS/Antara Foto/Joko Sulistyo

<送還に消極的なベトナム側に、インドネシア当局も苛立ち隠せず>

インドネシアスマトラ島北部、シンガポールに隣接するリアウ諸島州・ビンタン島の州都タンジュンピナンにある不法操業外国人漁民の収容施設にベトナム人漁民約200人が拘留されているが、折からの新型コロナウイルスの感染拡大などで母国への送還が滞り、拘留が長期化していることが分かった。米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」系のネットメディア「ブナ―ル・ニュース」が特報の形で12月15日に伝えた。

拘留中のベトナム人漁民の送還を在ジャカルタのベトナム大使館と交渉しているインドネシア海洋水産省は、拘留漁民の送還費用の負担問題のほか、新型コロナウイルス感染防止の観点から交渉が遅々として進んでいない現状に苛立ちをみせているという。

報道によるとタンジュンピナンの拘留施設には現在225人のベトナム人漁民が収容されているという。このうち船長クラスの26人は海洋関連法違反の容疑者として認定されているものの、残る199人は単なる一般漁民で容疑者としては取り扱われておらず、手続きが完了次第ベトナムへ送還するのは法的には問題なく可能な状態だ。

ネックは費用、経路そしてコロナ感染

ところがベトナム大使館は自国漁民の送還に必要な費用負担に消極的なうえに、コロナ禍によるインドネシアとベトナムを結ぶ直行の航空便が原則として停止されていること、さらに最も懸念している問題として「コロナ感染の危険性」を挙げて手続きや必要書類の発給を渋っている、とインドネシア海洋水産省の担当者はみている。

ベトナムは12月16日の時点で新型コロナウイルスの感染1405人・死者35人と、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国内でも極めて少なく、コロナ感染防止対策がそれなりに効果をあげている、とされている。

一方のインドネシアは同日までに感染者63万6154、死者1万9248人とASEAN域内で最悪を記録し続けている。

こうしたコロナ感染の状況からベトナム当局が自国民とはいえインドネシアから大人数が一度に帰国することがコロナ感染拡大防止という観点から大いに懸念材料と認識していることが返還交渉の遅れに関係している、と海洋水産省ではみている。

タンジュンピナンの拘留施設で帰国を足止めされているベトナム人は短い漁民で3カ月、長い漁民だと3年間も帰国できずにいるという。収容漁民の代表はブナ―ル・ニュースの取材に対して「ベトナム政府に我々の送還手続きの迅速な開始を要請してほしい。誰もが家族との再開を切望している」と話した。

大半のベトナム人漁民は零細漁民で「子供や家族の生活を支える収入が途絶えて生活困難に陥っている」と窮状を訴えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中