最新記事

イスラム教

「イスラム教徒はフランス人殺す権利」 斬首テロめぐるマハティール発言に「テロと宗教は無関係」とインドネシア大統領

2020年11月1日(日)09時34分
大塚智彦(PanAsiaNews)

預言者ムハンマドの風刺画を子供たちに見せた歴史の教師サミュエル・パティさんは路上で首を切断された── ERIC GAILLARD - REUTERS

<ムハンマドの風刺画は表現の自由というフランス大統領の発言は東南アジアにも大きな波紋を起こしている>

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は10月31日、フランスで発生したイスラム教預言者ムハンマドの風刺画を巡る殺人事件とそれに伴うマクロン仏大統領の発言に関して声明を発表し「テロと宗教は無関係である」としてインドネシア国民に冷静な対応を呼びかけた。

10月16日にパリ近郊でフランス人中学校教師(47)がイスラム教過激派とされるチェチェン系ロシア人(18)に首を切られて殺害された。この教師が授業中にムハンマドの風刺画を生徒に見せたことが事件の原因とされており、容疑者は事件直後駆けつけた警察に射殺された。

事件後、マクロン大統領は21日に行われたこの教師の国葬で「あなたが教えた自由をフランスは守っていく」「あなたのような静かな英雄をイスラム過激主義者はもたない」などと発言して「殺害というテロ行為」を批判。

同時に「風刺画を含めた表現の自由を今後も堅持する」姿勢を強調。殺害された教師にフランス最高の勲章とされる「レジオン・ドヌール」まで授与した。

このマクロン大統領の発言が「ムハンマドの風刺画」や「風刺画を授業で生徒に見せた行為」そのものよりイスラム教徒の怒りを招いた。

その結果、「マクロン発言はイスラム教への嫌悪を助長する」「イスラムへの恐怖心を煽る」「イスラム教を誤解したものだ」として中東諸国やトルコ、バングラデシュ、パキスタンなどのイスラム教国やイスラム教徒から抗議と非難を一斉に浴び、フランス製品の不買運動、外交関係の凍結などを求める事態になっているのだ。

人口約2億7000万人の約88%と世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアは、イスラム教団体がフランス製品のボイコットを呼びかけ、外務省が在インドネシア仏大使を呼んで事情を聴くなどしているが、これまでのところ過激な抗議活動や大規模な反仏デモなどは起きていない。

イスラム団体がテロと大統領発言を批判

インドネシアの「イスラム聖職者(ウラマ)評議会(MUI)」は29日に発表した声明の中で、ムハンマドの風刺画とイスラムを誤解させるマクロン大統領の発言を厳しく非難した。

しかし同時に中学校教師殺害を「テロ行為」であるとして批判した。そのうえでインドネシアのイスラム教徒にバングラデシュなどで激しさを増している反仏、反マクロンの抗議集会やデモなど過激な行動にでることなく「イスラム教徒らしく冷静に対応すること」を求めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス

ワールド

米英外相、ハマスにガザ停戦案合意呼びかけ 「正しい

ワールド

ウクライナ大統領、武器供与の加速訴え NATO事務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中