最新記事

外国人労働者

トランプ、ルペンよりもっと厳しい? 外国人の子供に国籍を与えない日本の「血統主義」

2020年7月29日(水)13時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

7.家族あれこれ

本編(『同僚は外国人。』)ではほとんど触れなかったが、外国人が家族を呼びたいという相談がよくある。家族というのがどこまでを指すのかというと、在留資格の世界では夫婦と子どもまでである。「日本人の配偶者等」という資格の「等」は子どもを指す。家族滞在もそれに準じている。多いのが「親を呼びたい」という相談で、これはほとんど不可能なのだが、一定の条件を満たせば呼べることもある。告示などで定められているわけではないが、本国に身寄りがない、老齢で病気がちであるといった条件がそろえば、人道上の見地から法務大臣が特別に認めることがあるのだ。もちろん、養う側にしっかりとした生活基盤がなければ問題外である。

ここで、ではどれくらいから老齢かということが問題になる。基準が定められている資格ではないので、あくまで想定でしかないのだが、以前は65歳以上と言われていた。この案内をした外国人が連絡をしてきて、親が65歳になったので呼び寄せて日本で面倒をみたいと相談があった。ところが日本は高齢化社会である。最近では70歳を超えないと難しいと言われているし、すぐに75歳になる可能性もある。

だが、日本のような高齢化社会は稀で、アジア諸国では50歳を超えると引退してしまうこともめずらしくない。こういう方を呼ぶのはほとんど不可能なのだが、やはり親の面倒をみたいと思うのだろう、ときどき相談がある。だが、彼らが呼びたい親というのがほとんど私と年が変わらないので、その話をするとだいたい諦めてくれる。ある外国人は、「日本は先進国でよい国で、文明的な生活ができるが、生きていくのは必ずしも楽ではない」と言っていた。

もうひとつ多いのが、妹を呼びたい、兄を呼びたい、兄弟を呼びたいという相談だ。この「兄弟」というのが曲者で、実はいとこだったりはとこだったりする。場合によっては法的な意味で親族ではなく、赤の他人であることもある。そもそも家族としての在留資格の対象ではないのでどっちでもよさそうなものだが、短期滞在で親族を訪問するときに申請の理由書の作成を頼まれることがある。兄と思って書いていたら、最後の最後でいとこだったということがわかり、肝を冷やしたことがある。核家族化した日本人にはなかなかわかりづらい家族関係である。

8.出生地主義

私がビザの専門家であると知ると、興味本位で質問してくる人たちがいる。いろんな質問をもらうが、よくあるのが「外国人同士が日本で結婚して子どもができたら、日本の国籍はもらえないの」という質問である。

世界にはその国の領土内で生まれたら国籍がもらえる国がある。例えば、カナダ、アメリカ、ブラジルなどがそうだ。これを出生地主義という。親が短期滞在の旅行者であっても、不法入国者であっても、子どもが領土・領海内で生まれればその国の国籍が取れる(飛行機や船舶の中でも適用される)。これを狙って妊婦がアメリカに渡り、そこで出産して子どもにアメリカ国籍を取らせる。親はその扶養者として滞在が許可されるので、意図してアメリカで出産する人たちがいる、というのがアメリカでも問題になっている。ちなみに、トランプ米大統領はこの出生地主義を改めたいという発言をしている。

一方、日本は血統主義である。両親のいずれかが日本人であれば、出生により日本国籍を取得する。つまり、最初の質問の答えは「もらえない」である。外国人労働者の受け入れ論議の際、欧州のようになってしまわないかという指摘があった。欧州はほぼ血統主義ではあるが、一部の国では出生地主義を一部取り入れている。政府が「これは移民政策ではない」と主張していた背景には、この国籍法の違いを意識していたことがあったと思う。

例えばフランスでは、子どもがフランスで生まれ、5年以上フランスに住んでいると、フランス国籍が欲しいと意思表示をすれば国籍が取得できる。日本にはこういう例外はない。だから、フランスの極右勢力のルペン氏などは、日本の国籍法と同様にすべきだと主張するのである。

「外国人を日本人の養子にした場合、日本国籍はもらえないのか」という質問もある。これは、できなくはない。ただし6歳以下の子どもに限る。つまり特別養子の基準である。特別養子では実の親との関係が切れてしまうので、さすがに日本国籍を認めないと困ったことになるからだ。一方、一般養子では日本国籍は取得できない。一般養子に日本国籍を認めてしまうと、相続目的と同じように国籍取得を目的とした養子が横行するだろう。トランプ米大統領の移民政策やルペン氏の政策が過激だとよく話題になるが、日本の外国人政策の方がずっと厳しいとも言えるのだ。

<関連記事:日本人が持つイメージより、はるかに優秀で勤勉な外国人労働者たちのリアル
<未掲載エピソード紹介(前編):一夫多妻制のパキスタンから第2夫人を......男性の願いに立ちはだかる日本の「重婚罪」


同僚は外国人。10年後、ニッポンの職場はどう変わる!?
 細井聡著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

【話題の記事】
・新型コロナウイルス、患者の耳から見つかる
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・がんを発症の4年前に発見する血液検査
・これは何? 巨大な黒い流体が流れる様子がとらえられる


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシアGDP、第1四半期は予想上回る 見通し

ビジネス

バークシャー株主総会、気候変動・中国巡る提案など否

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ワールド

ロンドンなどの市長選で労働党勝利、スナク政権に新た
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中