最新記事

サイエンス

「訓練されたAI」が新薬候補を続々と発見

AI and New Horizons for Antibiotics

2020年3月14日(土)15時00分
アリストス・ジョージャウ(科学担当)

ハリシン投与で耐性菌は全滅(上)、別に抗生物質(下)には耐性も COURTESY OF THE COLLINS LAB AT MIT

<抗生物質の効かない耐性菌が急増、特効薬開発の助っ人は鍛えられた人口知能>

既存の抗生物質が効かない危険な耐性菌を殺すことのできる新薬候補を、研究者たちが突き止めた。人工知能(AI)の助けを借りて、だ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のレジーナ・バージレイとジェームズ・コリンズは、AIのディープラーニング(深層学習)を活用して、膨大なデータベースから新たな抗生物質の候補となる化合物を抽出。AIがこの用途に使われるのは初めてだという。

WHO(世界保健機関)によれば、抗生物質が効かない耐性菌は世界中で脅威となっており、「全ての政府部門と社会に行動が求められる」という。現に米疾病対策センター(CDC)のデータでは、アメリカだけで年間約280万人が耐性菌に感染、3万5000人以上が死亡している。

新たな抗生物質の発見が急務だが、過去数十年に開発されたものはごくわずかで、大抵は既存のものと似たり寄ったり。新たな抗生物質探しにはコストも時間もかかる上に、調べる対象が一部の化合物に限定されがちでもある。

そこでAIの出番だ。機械学習によって、耐性菌に勝てる強力な化合物を短期間で突き止めることが可能になる。

「AIで分子をバーチャル検査し、細菌に対する有効性を予測する」と、バージレイは言う。「通常、そうした検査は研究室で行うが、費用も時間もかかる。AIなら何億もの化合物をスクリーニングし、詳しく調べるべき候補を絞ることができる」

いいことずくめの有望株

研究者らはまず、大腸菌を殺すのに有効な化合物のデータベースを使って、それらの特徴を特定するようAIのアルゴリズムを「訓練」。このアルゴリズムを使って、約6000種類の化合物を含むデータベースを精査した。

そこで浮上したのが、過去に糖尿病治療薬として研究されていた分子。研究チームは映画『2001年宇宙の旅』で人類に反乱を起こしたコンピューター「HAL」にちなみ、「ハリシン」と命名した。

化学的特質を基にハリシンが抗生物質として有効で、既存の抗生物質とは違うメカニズムで作用すると予測して分析を進めた結果、人間の細胞に無害である可能性が高いことも分かった。この薬が耐性菌にも有効かどうか、さまざまな細菌を培養して実験したところ、1種類を除く全ての菌に効果があった。

さらに、既存の抗生物質全てに耐性を持つアシネトバクター・バウマニに感染したマウスにハリシンを投与すると、24時間以内に菌を完全に死滅させることができた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中