最新記事

日本政治

「安倍首相はどこ?」 新型ウイルス対策、厚労相に丸投げでリーダーシップに批判

2020年2月27日(木)18時47分

「安倍首相はどこにいる」――。日本が新型コロナウイルス感染拡大の封じ込めに必死になる中、こうした批判の声が上がっている。首相官邸で代表撮影(2020年 ロイター)

「安倍首相はどこにいる」――。日本が新型コロナウイルス感染拡大の封じ込めに必死になる中、こうした批判の声が上がっている。

歴代最長の在任期間になった安倍晋三首相が、新型ウイルス対応策の代表者として陣頭指揮を執っておらず、その任務を部下の加藤勝信厚生労働相にほぼ丸投げしているという批判だ。

安倍氏のリーダーシップを巡る疑念は、既に支持率の低下につながっている。新聞報道によると、不支持率は支持率を上回った。これは2018年7月以来のことだ。

ちょっと前にあった「ばら色のシナリオ」では、安倍首相は7月に始まる東京五輪をうまく取り仕切って成功させ、その余勢で自民党が衆院選で勝利し、さらには安倍氏が自民党総裁任期末の21年9月に勝利し、異例の「4選」を勝ち取ることになっていた。だが、今回の事態でこのシナリオは覆るかもしれない。

「リーダーシップはどこへ行った」と疑問を投げ掛けるのは、日本政治の専門家であるジェラルド・カーティス・米コロンビア大名誉教授だ。

「この期に及んでもまともに顔を出さず、国民に語り掛けず、人々を動員しようとしていない。この状態が長引けば長引くほど、彼の信頼は傷つくだろう」──。

12年12月に首相に返り咲いて以来、安倍氏はいくつもの難局を乗り切ってきた。

しかし、ここにきて首相への支持は「桜を見る会」問題を巡る不信や、最近の他のスキャンダルで既に陰り気味。産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が22、23両日に合同で実施した世論調査では、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、内閣支持率が1月の前回調査より8.4ポイント下がって36.2%となった。不支持率は7.8ポイント上昇し46.7%。

ツイッターには「国民の不安は日に日に募っているのに、彼(安倍氏)はまともな記者会見も開いていない」といった声。「要するに、頻繁に顔を出せば悪いイメージだけが残るから、そうならないように顔出しを最小限に抑えているわけだ」といった内容も。

現実逃避

英国船籍のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での新型ウイルス感染拡大への対処を巡り、日本は厳しい批判にさらされた。

国内感染者が増え、死者も出るにつれ、懸念はさらに高まっている。

政府は25日、国内でのさらなる感染拡大に備えた基本方針を発表した。安倍首相は新型コロナウイルス感染症対策本部会合で「今がまさに感染の流行を早期に終息させるために極めて重要な時期だ」などとする文書をさっさと読み上げると、記者への説明は加藤厚労相に任せた。

基本方針には、時差出勤やテレワーク、イベント開催の慎重な検討などの措置が盛り込まれた。

他国では、より厳しい措置を取っているところもいくつかある。

イタリアは感染拡大が最も深刻な街を封鎖し、学校を休校にし、ベニスのカーニバルを期間の途中で中止した。

トランプ米大統領は、新型コロナウイルス対策として議会に25億ドルの予算措置を要請。ペロシ下院議長は、この額では不十分だとしている。

これに対し、日本が予備費から支出を決めたのは103億円(9200万ドル)、コロナ対策費の総額は153億円だった。もっとも、時事通信によると、支出拡大が検討されている。

「彼(安倍氏)は現実に目をそむけているのだろう」と語るのは、上智大学の政治学の教授、中野晃一氏。「本当には信じていない最も楽観的なシナリオを、彼らは信じようとしている」と指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アルケゴス創業者の裁判始まる、検察側が詐欺の実態指

ビジネス

SBG、投資先のAI活用で「シナジー効果」も=ビジ

ワールド

米国務副長官、イスラエルの「完全勝利」達成を疑問視

ビジネス

武田薬、認知症治療薬候補でライセンス契約 最大21
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中